「白いリボン」:黒く充満したゴミ袋
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:クリスティアン・フリーデル
ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア2009年
こりゃまたイヤ~ンな映画を見てしまったもんだ。
もっとも、ハネケの監督作品ならばイヤ~ンに決まっている。そして、みんなそれを期待して見に行くのだ。「楽しい」とか「興奮する」とか「感動する」なんて事には最初から縁がない。
ここには「悪」が描かれている。どんな悪かというと、既に満杯になっている黒いゴミ袋があるとする。そこにさらにゴミを詰め込むが、ふくれ切った袋は破裂もせず裂け目も出来ず、ただ微細な穴から汚濁がじくじくと滲み出してくる。それは拭いても拭いてもぬぐい切れない。そういうようなものだ。
どこから染み出してくるのか分からないから、誰がとか原因はということは判然としない。これは正しい、これは悪い、などとも白黒付けられない。そもそも明確な意志を持って行われているかも分からないのだ。
年老いた男の声の語り手が過去を回想する。
第一次大戦直前のドイツの小さな村の話だ。冒頭、医者が意図的に仕組まれた事故で怪我をする。翌日、村の権力者である男爵の納屋で死者が出る。
その後、村は不穏な空気に包まれ、事件が間欠的に起こっていくのだった。
全編モノクロで撮影された画面は、コントラストがはっきりした美しさというよりは、奇妙に静寂が満ち閉鎖的な共同体の重苦しさを体感させる。しかも時代が時代だけに村には電気が来てないから、夜はランプやローソクを使っている。闇だけがさらに黒さを増して濃厚だ。現代の日常では想像もつかぬ暗さである。
そんな闇にリボンが白く浮かび上がる。リボンは罪を犯した子どもが付けさせられる純潔・無垢の象徴であるが、そんなもの(純潔・無垢)が果たして実際に存在するのか--は大人の世界を見る限り疑わしい。
抑圧された空気の中、姿なき悪意が村の闇を徘徊する。そしてその悪意は時として何の責任もない弱者へと向かって噴出するのだった。
明確な解決もないまま2時間半近くこれで押し通すのだから、大したもんである。さすがハネケというしかない。彼の作品の常として劇伴音楽はなくひたすら淡々と進んで行く。時折、ルターのコラールが印象的に使われていた。
映像の構図は常に美しく均整が取れている。モノクロなのは当時を伝える画像(A・ザンダーの写真あたり?)がそういうイメージだから、という理由もあるそうだが、私は同時にヴィルヘルム・ハンマースホイの絵も連想した。明らかに引用したのではないかという場面もある。
いずれにしろ観客に非現実的な印象、ある種の隔絶感を与えている。それが登場人物への感情移入を完全に阻んでいると言っていいだろう。美し過ぎて……冷たい(>_<)
最後に、ふくれ切ったゴミ袋は遂に破裂したことが告げられる。それは正義が行われたのではなく、さらに大いなる悪が覆うのだ。
これは歴史的な事実だが、どうも私には遠い過去の他所の国の話とは思えないのだ。なぜなら、男爵が村人の不安だけを煽るだけ煽って事態を放置する--というのは、現代の日本でもよく行われることだし、さらに神父が語り手を恫喝する件りでは、この政治家がソックリな発言をしていたからだ。もちろん、この人物も子どもに純潔と無垢を求めているのだった。
こうして、私はますますウツになった。
最もイヤ~ンな場面は、牧師が息子をジワジワと問い詰めるところ。本当にハネケったら嫌味な奴だねー。(注-ホメ言葉である)
子どもが大勢出てくるのでボーッとして見ているとどこの家の子か分からなくなるので要注意。
鬱度:9点
子役演技度:9点
【関連リンク】
「ヴィルヘルム・ハンマースホイとイーダをめぐる夢想」
「ハンマースホイ展(東京展)」
絵画作品の画像あり。
《漫画、映画、その他》
「感動」というものについての解釈が面白い。
《ぷらねた ~未公開映画を観るブログ~》
監督のインタビュー。
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コメント
この映画、わたしのよく行くアート・ハウス映画館リュミエールの2009年12月1日から2010年11月30日までの観客動員数ナンバーワンです。
今年の初頭にかなり長いことやってたので、ヒットしてるな、と思いつつ、なぜかパスしてました。見に行った知人は、すごくいい、と推してましたが。さわやか革命さんがそのように感じられた映画ということで、俄然、見たくなったわ。
投稿: レイネ | 2010年12月27日 (月) 18時07分
ハネケ作品は見る人を選ぶようなんで誰にでもオススメというわけには行きませぬ ラース・フォン・トリアーほどではないでしょうけど。
さらに、私は気付きませんでしたが、毎回爆睡する人が多数とか……(^^; まあ、それもむべなるかなとは思います。
それにしても、カンヌで栄冠を得た作品が何故公開に一年もかかったのか--というのは謎です。
投稿: さわやか革命 | 2010年12月28日 (火) 13時00分