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2011年1月 9日 (日)

「君を想って海をゆく」:タイトルは肝心

110109
監督:フィリップ・リオレ
出演:ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ
フランス2009年

開演時間が迫る中、私はチケぴの窓口に息せき切って飛び込み叫んだ。「『少年は海を渡る』の前売りを1枚!(>O<)」
すると窓口のおにーさんは無言で何かゴソゴソしていたかと思うとおもむろに口を開いた。「『君を想って海をゆく』ですね」
チケぴのおにーちゃん、あんたはエエ人じゃ きっといいヨメさんが見つかるじゃろう。わしが保証する)^o^(

十七歳の少年がイラクのクルド地区から歩き続けて四千キロ! ドーバー海峡を望むフランスのカレの町にたどり着く。目指すは彼女とその家族が移住しているロンドンだ。
しかし、難民が英国に渡る正規の手段はなく、密航も失敗。無謀にも泳いで渡ろうと決意するのであった。

彼は市民プールの水泳コーチに泳ぎを指導してもらうことを頼む。彼が難民であることを知りつつ、様々な思惑や感情からコーチを引き受けるのである。
ここで驚くのは、難民に食事を与えたり宿泊所を提供したりすると、市民の方も逮捕されてしまうことである。しかも密告が奨励されているらしい。
フランスは難民の受け入れ先進国かと思っていたんで、いささか驚いた。もっとも、不法入国者と分かってもすぐに送還したりしないからそこら辺は寛容か。

フランス映画でありながら、少年はフランス語が話せないので、英語の会話が中心になるという珍しい作品でもある。
フランス人ならば英国へ渡るのは簡単だろうが、国籍なき者は国境を越えることもできぬ。海は正規の枠から外れた者に立ちはだかる冷たい壁だろう。少年の一途な純情は美しい。しかし、残念ながら世界は不透明に濁っているのである。それを人生下り坂の中年コーチの視点から見るという形を取っている。
とはいえ、この問題は極めて難しい。映画は国内で大ヒットしたらしいが、監督と大臣がやりあったりしたそうだ。

ラストシーンは極めて辛辣である。そしてさらに追い打ちをかけるように、そこで作品のタイトルが初めて入る。これがまたまた皮肉で辛辣なのだ。監督の怒りを表しているようである。
邦題は内容そのまんまで分かりやすくていいけどね……(^^;ゞ
新年鑑賞一作目としては暗くて泣ける映画を選んでしまったよなあ。


邦題点:5点
中年男の悲哀度:8点

ところで見終って出口へ向かったら、なんだかチケット売り場のところがやたらと騒がしい。見ると、半白髪の中高年女性が恐ろしい剣幕でまくしたてているのである。
その内容を何とか解読すると、自分はこの映画を3回見てて、一度めは良かったけど、その後は社会背景を描いた肝心な部分の字幕が(場面が?)削られてしまっている。社会勉強のために自分は見に来ているのに、これはどういうことか、抗議する--と言っているらしい。
あまりの騒ぎに開場待ちの客が遠巻きにして眺め、その間窓口は停止状態……。みんな口アングリである。
いや~、恐ろしい{{(>_<)}} あんなオバハンにならないように気をつけなくては。と自戒しつつその場を去ったのであったよ。

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コメント

『少年は海を渡る』って、『少年は虹を渡る』からの連想で出ちゃったんでしょうね。(本作の原題は知りませんが、後者はもともと『ハロルドとモード』だったのを上手く日本人に受けそうなタイトルつけたもんだと感心します。人名がタイトルになってる映画って多いけど、日本人にはあまりピンときませんものね)

不法入国もの・難民ものって、すでに映画ではジャンルを確立してると思えるほど沢山あります。特にヨーロッパでは日常茶飯事ながら、社会的に重いテーマだから、暗くて救いがない。どの映画でも、唖然とするほどカンタンに悲惨な状況で死ぬし、人身売買にも繋がるので、暗い映画大賞上位ノミネート確実です。
しかし、難民や不法居住者の密告が奨励されてるなんて、ナチス・ドイツに占領されたフランスやオランダのユダヤ人狩りを思い出させます。人権にうるさい現代でも昔と変わらないのね。

同じジャンルのIn this worldという映画に似てるような感じです。

投稿: レイネ | 2011年1月10日 (月) 04時20分

『少年は虹を渡る』は最近、シネコンの早朝のリバイバル上映でやってたのが頭にあったので、つい口に出てしまったようです(^^;)

難民をテーマにした作品は、日本でも定期的に「難民映画祭」というのをやってるぐらいですから、確かに多いんでしょうね。
主人公が難民を街中で車に乗せてやると、早速それを目撃した市民が警察に電話でご注進--というエピソードが出てきます。
監督がナチ占領下の状況と同じだと発言したことから、大臣と論争になったらしいです。

投稿: さわやか革命 | 2011年1月10日 (月) 23時55分

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