「神々と男たち」:神の沈黙、語る人間
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
出演:ランベール・ウィルソン
フランス2010年
大地震以降、音楽関係では海外アーティストの来日中止や、或いは既に来日していても公演をキャンセルして帰国という事態がバタバタと起こった。それについて、ネット上では彼らに対して非難や恨みがましい意見が幾つか見受けられた。あたかも見捨てられたとでもいうように。
これには少し驚いた。何の義理もなく、自分の国でもあるまいし、母国から退去の勧告や命令が出たらさっさと従うのは当然のことだろう。
過去を振り返ってみると、この国では戦乱の土地に外務省に逆らって留まったボランティアの若者たちを散々非難したことがあったんじゃなかったかね。
同じようにアーティストがコンサートを敢行して「正気じゃない」とか言われてしまったらどうするよ。
さて、この映画に登場する人々もそういう意味で「正気じゃない」と言われそうである。
1990年代半ばに実際に起こった、アルジェリアで7人のカトリックの修道士が誘拐・殺害された事件を題材にしている。
--というと、緊張感あふれるタッチを予想してしまうのだが、実際は全く逆だ。ほとんど「退屈」に近い。なぜなら、修道士たちの生活が極めて単調であり、その描写に多くを費やしているからである。
田舎の小さな村に長年修道院を開き、自給自足の生活を送り、イスラム教徒の村人たちに奉仕活動を行う彼らはまさに「清貧」の一言だ。その簡素な日々が時折破られる。その原因は外国人殺害のニュースだったり、アルジェリアの政府軍が来たり、イスラム急進派の武装集団の襲来だったりする。
そしてフランスからの帰国命令……。死の予兆がひたひたと近づいてくるのだった。
毎日の聖務日課で聖歌を歌って祈り、聖書を読み、畑仕事をし、蜂蜜を作り、医療奉仕を行う--その繰り返しは二千年近くも昔の初期キリスト教もこんなだったのだろうかと思わせる。
一方で、帰国するか否かを全員各々きちんと自分の意見を述べ、議論しながら合意にたどり着いていく過程はさすがフランス人としか言いようがない。日本人だったら、何教の信者だろうとこんなことは不可能だろう。
彼らがその地に残った理由は明確に述べられる。それを聞けば「正気じゃない」とは思えないはずだが……。
実際には、事件の犯人がどちらの勢力なのかはハッキリしていないらしい。真相は闇の中、いや雪の中に消える。
役者たちは全員、抑制された演技に徹している。派手なところ、目立つところは皆無。これこそ実力が試される役柄だろう。
修道士たちが繰り返し歌う聖歌がとても印象的である。逆にクライマックスの「白鳥の湖」はちょっと勘弁してくれ状態だった。やっぱり、この時代の音楽は私にはダメだというのを実感。
ただ、正気なところあまりにも静謐過ぎるタッチなんで、夜間の余震のために睡眠不足の頭にはちと厳しかった。寝不足でないときの鑑賞を推奨します(~_~;)
見ている途中で、観客のケータイから一斉に「緊急地震速報」のブザーが鳴り響くアクシデントがあった。やはりマナーモードじゃなくて電源オフにしておかなくてはだめなのね……って、それじゃ「緊急」の役に立たねえ~(>O<)
禁欲度:9点
娯楽度:4点
【関連リンク】
《海から始まる!?》
修道士ご本人たちの写真や聖歌の歌詞あり。
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