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2011年5月15日 (日)

「わたしを離さないで」:美徳の不幸

110515
監督:マーク・ロマネク
出演:キャリー・マリガン
イギリス・米国2010年

カズオ・イシグロの小説を映画化した作品。製作に作者も関わっているので、原作(私は未読だが)がよく再現されているとみなしていいのかな。

静かな田園地帯の中に建つ古めかしい寄宿学校。その中で少年少女たちが管理された教育を受け、一定の年齢になると別の施設へ移って共同生活を続ける。その先に待っているのは……。

原作ではなかなか明かされないいまま謎めいた雰囲気が続くらしいのだが、映画ではその「謎」が早々に明らかにされてしまう。子どもたちは臓器提供のために作られたクローンなのだった。
やがてひたひたとやってくるその日--彼らはそれから逃れることはできない。
SF的設定は、このような状況を描くために取られたのだろう。

全編に繊細さが横溢し、映像も極めて美しい。若手の役者三人がその特異な状況をよく演じている。特にキャリー・マリガンは抑制された演技が見事。キーラ・ナイトレイはあまり死にそうには見えないけど。それぞれの子役もうまい。
シャーロット・ランプリングの校長が怖さと不気味さで一層盛り上げている。

もっとも、原作者が日系人ということもあって、このように死を従容と迎えるのは日本的な特質と監督は考えているようである。
ネットの感想で「なんで主人公たちは逃げ出したり反抗しないんだ」というのを幾つか見かけたが、そんなことを言ったら今のような日本の状況でも大人しくしている日本人というのもかなり驚かれているようだ。スペインから来た記者は、こんな原発の災害がスペインで起こったら30分後に電力会社の周囲を怒った民衆が取り囲んでいるだろう、と言ったそうである。
大人しいというのが、果たして日本人の美徳であるのか欠点であるのかは不明(~_~;)

感情表現の面からは繊細な意識の動きが描写されていて素晴らしいが、さて論理の面からはどうか?
どうせ殺してしまう人間に多額の金をかけて教育を与えるのは全く不効率な話である。クローンを作るほどの技術があるなら、細胞の培養で直接臓器を作れるのではないか?
ロボットじゃあるまいし、クローンだって感情はあるだろう--なんてことを突っ込むのは野暮の極みですね、はい(^_^;)

映画館で終わった後、原作を読んでいると思しき人が「伏線が全部省かれてる」と不満そうに話していた。私も読んでみたくなったぞ。
ところでラストの風景は前にも登場したっけ(?_?) なんかいきなり現れて訳が分からなかった。
なお、字幕は冥王の回し者な「あの人」であった。訳の分からない所があるのはそのせいか やめてくれ~(>O<)


繊細度:9点
活力度:4点


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コメント

2週間ほど前に鑑賞したんですが、重い内容に思うところが多すぎて、ブログ記事にできてません。。。。

クローンにお金かけてしっかりした教育を授けるあの学校は、やっぱり効率的でないので廃校になりましたね。でも、多分、いい環境で美味しく育った高級臓器として、スノッブな金持ちには人気・需要があったのでしょう。高級肉の畜産と同じで。
もの悲しすぎるラストの風景はまさに、日本人的諦観が象徴されてました。

わたしも原作が読みたくなったので、丁度今イギリスに行ってる主人に向こうなら安いだろうから買ってきて、と頼んだんだけど、忘れないで欲しいわ。

投稿: レイネ | 2011年5月15日 (日) 16時59分

最近、また学生時代に文学を専攻した友人たちと会って読書会を行いました。テーマは『愛を感じる本』。友人のひとりが挙げた本がカズオ・イシグロの『私を離さないで』でした。三月十一日から、何をしてもどこか空しい、と語りつつも挙げてくれた本で、個人的にとても気になっていたんです。 あらすじも調べて知ってはいましたが、映画化されていたんですね。 シャーロット・ランプリングも出演されているそうで、ぜひとも観たくなりました。 友人は、原発をクリーンで効率的な「良いもの」だと知らず知らずのうちに思っていたと言います。私もどこかでそう思っていました。疑ってかかるよりも信じた方が楽だから信じる。 原作を未読ですが、知らず知らずのうちにひたひたと押し寄せる何かに対して自分は抗えない、流されるより他にないと感じさせられることそれ自体が、大震災後の今の心境と妙にリンクしているように思われました。 
設定について言えば、臓器移植法の改正もあってちょっと考えてしまいました。 人間になる前に脳の文化を止めてしまって、知能や感情を持たせず、臓器の入った『袋』としてみなす方が余程倫理的だと私は思いました。 おっしゃる通り、直接臓器を培養する方が安上がりでしょうし。 どこからどこまでを人間とみなすのかは難しい問題だとは思いますが…。
とはいえ、未読なのでいろいろと落ち着いたら読んでみたいと思います。 落ち着く頃には映画もDVD化されているかもしれませんね。 そちらも楽しみです!

投稿: かみや | 2011年5月16日 (月) 10時47分

 >レイネさん

ご覧になってたんですね~。
極論すると、読み書きを教えることだって無駄だという気がしますが(^o^;)

この日本人的諦観は作者が今は外部に暮らしているからこそ、描けたのかもしれません。
きょうびの日本の小説なら、この手の話は
「突然、暗い地下室に集められた若者たち。彼らは互いに殺し合うように強制され、最後に生き残った者だけが臓器を取られるのを猶予されると告げられたのであった。一体生き残るのは誰か?」
--みたいな感じですかね。


 >かみやさん

原作でも映画でも(DVD化されたら)、まあ実際に見てみてください。
カズオ・イシグロの小説は分かりにくいということらしいですが。

投稿: さわやか革命 | 2011年5月17日 (火) 05時39分

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受信: 2011年5月20日 (金) 22時37分

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受信: 2011年8月31日 (水) 06時08分

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