「星を追う子ども」:既視感のパッチワーク
監督:新海誠
声の出演:金元寿子
日本2011年
休日に入っていた予定が急に中止になってしまったので、何か映画でも見ようと思って選んだのがこれだ。どうして選んだかというと、この新海誠という人が男子高校生にやたらと人気があるアニメ監督だからだ。どれくらいの人気かというと、宮崎駿に次ぐくらい。押井守とか庵野秀明以上なんである。全然知らない名前だったんでその人気ぶりにビックリした。
もっとも、今回の新作はそれまでの青春SF風のアニメとは違って、少年少女向けファンタジーなのだという。
さて、大枚1800円払って見たその感想はというと……ほとんど物語の体を成していない作品だった。
そもそも舞台がいつの時代なのかも分からない。日本といってもパラレルワールドとしか思えないのだ。鉄道の駅員の制服は国鉄時代のものらしいし(詳しい人にはちゃんと分かるそうな)、田舎町の中学校の校舎は木造だし、オート三輪なんか走っている所を見るとどうも昭和三十~四十年代ではないかと思えるのだが、途中で登場する教師のメガネは下半分がフチ無しだし、ヒロインの制服はニットベストだ。これはもっと後の時代のもんじゃないの?
で、こんな今一つリアルでない世界からさらに地下の世界へ旅するという異世界ファンタジーになる。地下なのになぜか昼夜があって(人工太陽?)、風景や住人の印象は『ナウシカ』か『もののけ姫』みたい--「みたい」つーか、そのまんまですな。
教師が地下世界を目指すのはそこで死んだ妻を蘇らそうという目的があるからだが、ヒロインの少女がなぜそこへ行こうとするのかはよく分からない。
いや、それどころかほとんどの登場人物の行動の意図が見ていて説明されていないのである。教師にしてもどうして少女を一緒に連れて行くのか不明。妻の復活に利用しようとする腹黒い意図があるかと思ったらそういう訳でもなかった。
登場人物の全員が何考えているのか不明で、ストーリーに伏線はなく、世界の描写のすべては既存のもののパッチワークのようである。
しかし、一方で背景は驚くほどに美しいし(特に空や雲)、個々の微細な描写(ヒロインが家事を一人でやるところなど)は極めて丁寧である。
もっとも、これは最近見た幾つかの日本のアニメに共通な特徴でもある。視覚的な描写はそこまでやるかというぐらいに詳細なのに、ストーリーや心理描写は大ざっぱ過ぎなのは納得いかない。
またキャラクターの魅力に乏しいのも問題だ。少女はどういう観点から公平に見ても萌えどころに乏しい(わざとそうしてる?)。美少年の兄弟が出てくるがフ女子がキャーキャー言うほどでもない(私は美少年ファンではないのであくまで推測だが)。
さらにこの作品を一体どういう層をターゲットにして作ったのかも不明だ。少年少女向けったって、小学生には難し過ぎ。ご家族向きでもないから中学生単独にはロードショー料金は出せないだろう。高校生には萌えどころがないし(^_^;)
こうして見ると、ジブリアニメは各層にアピールするようによくマーケティングが出来ているなあと改めて感心してしまう。
しかし、驚いたことにミクシィのレビューやブログの感想では高評価なのだ。そもそもファンしか見に行かない、ファン向けて作ったの作品なのか。よう分からん。私には理解不能な世界としか言いようがない。
採点不能
【関連リンク】
《さ ざ め 記》
「どこで泣けばいいのか」というのに同感。
《佐藤秀の徒然幻視録》
こういう風にメタファーとして解釈すればよいのか。私にはできませんが。
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