「キッズ・オールライト」:父親がなくても子は育つ
監督:リサ・チョロデンコ
出演:アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア
米国2010年
いかにも米国(西海岸?)な家族の物語である。
レズビアンのカップルがそれぞれ人工授精で子どもを産んで、平和な家庭を築いている。しかし息子は反抗期になって、遺伝子上の父親である精子の提供者に会おうとする。
レズと言っても自然に役割分担が出来てしまうらしくて、片方は医者として家計をになって保守的ともいえる「父親」であり、もう片方は専業主婦の「母親」なのであった。
子どもである姉弟が探し出してきた「実の父」は頼りがいのある兄キみたいな存在に見えるが、二人にとって平和な家庭への余計な闖入者であり、秩序を乱す者に他ならない。
一方、気軽な独身生活を続けてきた男は、急に出現した「娘&息子」を見て、自分も家庭が欲しくなるのであった。
しかし、この姉弟が実にいい子ちゃんなのだよねえ。二人がそれぞれ仲良くしている友人たちみたいなどうしようもないガキだったら、男も家庭に憧れたりはしないだろう。
もっとも、彼にしたって女ったらしという以外には悪い人間ではない。大学をドロップアウトしたが、有機栽培した野菜を出す人気レストランの経営者として成功している。ヤク中でもアル中でもなし、前科も借金もなし、マチズモを振り回す男権主義者でもなし。基本的にエエ奴です。
従って、後半に男の化けの皮がはがれて底の浅い素顔をさらしてしまう展開は、それまでの伏線もないのでちょっと強引な印象だった。
自らもレズビアンであるという監督にとっては「けっストレートの男がいくらでも家庭を作る機会があったのに、私達が苦労して築いた家庭を横取りなんかさせんぞ」という怒りがこめられているようで、底意地の悪ささえ感じさせてしまうのだった。
もっとも、それはマーク・ラファロが男の後半の情けない姿までイヤミなく演じていたせいかも知れない。オスカー・ノミネートの価値はあり。
同じく主演女優賞にノミネートされた「父」役のアネット・ベニングは、ジョニ・ミッチェルを歌う場面には爆笑(^○^) 残念ながら今回もまた獲得できなかったが……
「母」のジュリアン・ムーアもいい味出してます。
結局、この映画の何が物足りなかったかというと、観客の側は新しい家族の形が描かれてるのを期待して見に来るのに対し、物語自体はトラブルがあって逆に家族の絆が強まる「雨降って地固まる」というよくある(旧弊な)話に落ち着いてしまう事だろう。
性的マイノリティの方が保守的な家庭を希求するという一見逆説的な、しかしよく考えれば当然な状況が期せずして表れてしまったようだ。
バックに流れる印象的なギターはマーク・リボーだった。
「J・ミッチェルを好きなストレートの男は珍しい」ってホントか(!o!)
原題は「キッズ・アー・オールライト」だが、これは慣用的な言い回しなのか? ザ・フーの曲名にもなってるし。
母親度:5点
父親度:6点
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