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2011年7月17日 (日)

「光のほうへ」:溺れ行く人々

110717
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:ヤコブ・セーダーグレン、ペーター・プラウボー
デンマーク2010年

今年度のアカデミー賞外国語映画賞はデンマークの"In a Better World"が獲得した。そして、こちらはデンマーク国内で同じぐらいに評価が高かった作品らしい。(チラシもなんとなく似ている所がある)

二人の兄弟が、アル中の母親が育児放棄した赤ん坊を育てている。だが、なにぶんにも子どもゆえに赤ん坊を死なせてしまう。××年後、大人になった兄は暴力事件を起こしてム所帰りの酒浸り、弟は男手一つで幼い息子を育てているが、どうも挙動不審である。

母親の死をきっかけに二人は再会する。その前後を兄と弟それぞれの側から描く。
社会保障の進んだデンマークではム所帰りの失業者でも、立派な(日本の水準から見ても)シェルターに住めるらしいのに驚く。
戦乱もなく、疫病もなく、飢餓もなく--それにもかかわらず、いやそれだからこそか? ここに登場する人々のほとんどは幸福ではない。これは先進国共通の悩みなのだろうか。「最少不幸社会」とは実はこのことかなんて思ってしまう。

人の行きかう街路で男が一人ぶっ倒れているが、誰も気にかける者はいない(私もきっと無視して通り過ぎるだろう)。昔マイケル・ムーアが作ったTV番組で、サクラの行き倒れを幾つかの都市で倒れさせておいて、最初に助けようとする人が現れるのはどこかという競争を、同時中継でやったのを思い出した。あの時も先進国の大都市が舞台でしたな(^_^;)

幾つかの事件を経てもう一度兄弟は再会する。しかし、その場所は--極めて皮肉な顛末である。
それにしても他の人の指摘で気付いたけど、弟の方は名前が明らかにされない。なぜ

このように社会の過酷な真実を描いているが、作り手の視線は決して冷酷ではない。
また、映像による心理描写も丁寧だ。特に印象に残っているのは、人物の姿が闇の中に沈み片方の眼だけに光がかすかに反射している場面である。無言の中の苦しみが静かに伝わってくる。
子役(特に子ども時代の兄役)はうまいし、大人になってからの二人の役者も素晴らしい。
テレビには前向きに頑張る人が多く登場するけれど、ここにはそれがしたくてもできない人々が描かれている。これも映画の効用の一つだろう。

原題は「潜水艦」で、水面へ顔を出すことができない苦しさを表しているとのこと。それに対し、邦題は希望を感じさせるというので評判がいいみたいだ。しかし、私なんかこういう邦題だからこそ見る気が失せていたのだった(ひらがなが多いタイトルはどうもうさん臭くないか)。他の人の感想を読んで初めて興味を持った。こんなひねくれ者もいるのであ~る(~_~メ)


最少不幸点:8点
邦題点:5点

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