「フランチェスコ・ラージ」:歌は涙かため息か
フランチェスコ・ラージといっても全く聞いたことがない。
なんでも初期バロック期のイタリアで活躍した歌手にして作詞作曲家だそうで、シンガーソングライターのはしりと言っていいようだ。楽譜の残っている最古のオペラとして知られるベーリ「エウリディーチェ」に歌手として参加、そしてモンテヴェルディの「オルフェオ」初演ではタイトルロールを歌ったという。こりゃ、音楽史上で大した人物なのであった。
そんなラージ氏を聴いた。歌うは辻康介である。彼の歌はジョングルール・ボン・ミュジシャンのコンサートで中世歌曲を聴いたことしかないのだが、実はイタリア留学してバロックを学んでいたとのこと。
南蛮ムジカとは彼のユニットで、他のミュージシャンはその都度変わるらしい(多分)。この日はスピネットの根本卓也、テオルボの佐藤亜紀子が共演だった。
さらに会場も珍しい。1915年に建てられた浄土真宗の教会堂という、日本近代建築史上貴重なものだ。(詳しくはこちらをご覧下せえ) 場所は東大のすぐそばである。
靴を脱いでスリッパに履き替えて入る。内部は自由学園明日館講堂をこじんまりさせたような印象である。
前半はラージ自身の作品が7曲歌われた。おそらくご本人は当時こんな風に歌ったであろう姿を彷彿とさせるものだった。
合間に佐藤亜紀子が小曲を挟んだりした。会場があまり残響が多くないために却って音が明確に聞こえ(近江楽堂なんかだと残響あり過ぎで音がぼやけた感じになってしまうのだ)、それがまたとっても心地良い音なのであった。テオルボでもリュートでもこれまでこんなに気持ちのいい音は聴いたことがねえ~というぐらい。
スピネットの音は初体験だと思うが、チェンバロよりも撥弦楽器っぽい印象だった。
で、この二人が曲を抒情的にますます盛り上げるのであったよ。
後半はラージが歌手として歌った「オルフェオ」から数曲。さらにドド~ンと感情揺さぶる歌が続く。
えー、コンサートの趣旨に反してしまうけど、正直な所やっぱりモンテヴェルディって卓越した作曲家だったんだなと思ってしまった。前半のラージと比べるとね(^_^;) まあ、歌曲集とオペラじゃ傾向も違うとは思うけど……
ラストの曲だけ「エウリディーチェ」から。これはなんと悲劇的なオルフェウス神話をハッピーエンドにしてしまった作品だそうな。
会場も含めて全体的に満足感の高いコンサートであった。
ただ、辻氏のMCはいささかクセがあって「ちょっと気に入らんな<(`^´)>」と感じる人もいるかも。
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