「百合子、ダスヴィダーニヤ」:情熱の女、情けない男
時は大正、ロシア文学者にして雑誌編集長の湯浅芳子と、天才少女と呼ばれた若き作家--後の宮本百合子との愛憎を描く。
芳子は当時において、自らが同性愛者であることを公言。一方、百合子は十五歳年上の亭主持ちであったから、大変だー。しかも、二人は数年間生活を共にしてロシア留学をした後に、百合子は芳子を捨てて共産主義者の宮本顕治と結婚しちゃうのである。
もっとも、映画で主に描かれるのは出会いとその直後のあたりだ。
私が予想していたのは波乱のドラマであったが、実際見てみるとそういう訳じゃなかった。登場人物が対話を繰り返している場面が多く占めている。
脚本が悪いのか、芳子が百合子の田舎の祖母の家に行ってすぐに「情熱的な私たちの関係」みたいな台詞が出てくるのだが、どこが情熱的なんだかよく分からない。やってることは二人で手をつないで美しい風景を眺めているぐらいなのだ。
台詞ですべてを説明するのはやめてくれ~~(>O<)
てなわけで、私は最後まで「情熱的な関係」を実感できず、文学少女の恋愛理想談義に付き合わせられているような気がした。おまけに、二人の濡れ場にはムードたっぷりな音楽が流れちゃうし……(>y<;)ウウウ
それに、二人の「関係」を阻むものがあまり出て来ないというのも盛り上がりに欠ける。百合子の両親は物わかりよく、娘に「ヨメに出たら二度と戻ってくるな」みたいなことは言わんし、芳子の家族は最初から登場しない。
身近な者と世間を兼ねて、女二人を非難するのは百合子の夫だけなのだ。これではあまりに障壁が少ない。
また、この夫がどうしようもなく情けないヤツなのだ。どのくらい情けないかというと、家へ帰って布団を頭からスッポリかぶって「ああ、情けな~い」と身もだえしたくなるほどである。そんな男を大杉漣を非常に巧みに演じている。彼がいなかったらこの映画の魅力40パーセント減と言っていいほどだろう。
この好演のせいもあって三人の関係のゴタゴタは終盤ではコメディかと思えるほど。思わず笑ってしまった。
一十三十一(シンガーソングライターだそうな)演じる百合子を誰かに似ているなと思って見ていたが、ちょうど結婚した頃の松田聖子だと思い至った。周囲を気にせず、全てを獲得する--百合子とは当時の松田聖子だったのであろうか。
実際にある建物でロケしたとのことで古い屋敷や洋館は見ごたえあり。衣装についても女性陣の着物や百合子の洋装がステキであったが、和服関係の審美眼に欠ける私には猫に小判状態だったかも(+_+)
それから、台詞のアフレコのずれが気になった。後半では慣れたけどさ……。
「協力」に「日本共産党」のクレジットあり。何を協力したのか?
結論としては、テーマは大いに興味があったが、スタイルは私の苦手なものだった。とはいえ、こういう題材を取り上げる映画は日本では少ないので、監督はこれからも頑張って下せえ。ただ、上映前に映画館に出現して作中に出てくるセリフまで語っちゃうのは避けた方がいいかと(~Q~;)
原作は同名のノンフィクション。そのうち読んでみたい。
凛々しい女度:6点
情けない男度:9点
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