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2012年1月28日 (土)

「スモールタウン マーダー ソングズ」:小さな町の大いなる神

監督:エド・ガス=ドネリー
出演:ピーター・ストーメア
カナダ2010年
*DVD鑑賞

この映画を知ったのは《海から始まる!?》の記事だ。「バンクーバー映画批評家協会賞」のカナダ国内作品対象の賞で、作品・監督・主演男優・助演女優にノミネートされたというのを読んで興味を引かれたんである(その後、主演男優賞を受賞)。
しかし、未公開のままDVD発売されたということで、ご近所のツタヤを検索してみたら入っているではあ~りませんか!(^^)!
それで、早速借りて来て見てみた。

なんと上映時間75分。長尺作品が多い現在では破格の短さである。昔は短い作品も多かったが、それでもせいぜい85分ぐらいだろう。
冒頭、夜の光景の中にやつれた表情の女が立っている。パトカーのライトが点滅し、さらに警官とおぼしき男も登場する。これがタイトルに「マーダー」とある事件かっ--と思うと場面は転換し、警官の日常生活の描写へと入っていく。

彼はカナダのオンタリオ湖畔にある田舎町の警察署長のようだ。平凡な田舎町ゆえにたいした事件はなく、住人はみな親しげに挨拶してくる。元恋人が現在付き合ってる男を除いては……。
だが、彼自身は何かの問題を抱えているらしく悶々としている。そしてその解決を信仰に求めているようである。

と、そこで殺人死体発見 てっきり「ツインピークス」みたいな展開になるのかと思ったら、そういうことではなかった。

説明的なセリフはほとんどない。市警察から派遣されてきた刑事に地元の特殊な宗派(メノナイト教というらしい)について説明するぐらいだ。
カナダと移民というと、ケベックのようなフランス系住民が思い浮かぶが、その昔に新教迫害を逃れてドイツ語圏から来た移民の末裔が暮らしているとは知らなかった。日常会話は英語を使わず、アーミッシュほどではないが堅固なコミュニティを築いているらしい。
そして主人公は恐らくそこを離れていて、親兄弟とも不仲なのが描かれる。

日常に潜むチクチクと刺さる棘。事件をきっかけに主人公は思いがけない方向へと向かう。それともこれは彼の過去から考えれば、起こるべくして起こったことか。
彼は正義がなされたと信じているが、相棒の警官の態度を見るとそうは思われていない。少なくとも、彼の周囲の人間はみな以前より不幸になったようだ。
そして、一体彼自身は救われたのか?……それこそ神のみぞ知る、だろう。

最近見た映画の中では群を抜いて宗教的なテーマの作品だ。しかし宗教を超えて人間に内在する深い闇や孤独、そして罪悪について訴えるものがある。さらに、全編異様な雰囲気が漂っている。
同じカナダ映画である「灼熱の魂」と同様に、共同体や家族の絆と愛憎、宗教、暴力といったものを取り上げているが、その語り口は全く対照的だ。いや、対照的という以前に完全に別次元というしかない。

淡々と自然や町並みを捉えた映像も印象的だが、それよりもさらに異様な迫力をもたらしているのが使われている音楽である。
米国南部の黒人教会で歌われているような熱気をはらんだ聖歌--のようでも、よく聞くと声は白人の男女のようだし(しかも素人っぽい)、パーカッションやエレキギターも使われている。もっとも、最近はヘビメタ・サウンドで福音を歌ったりするらしいから珍しくはないのか。
なんとなく、どこかの教会のアマチュア聖歌隊の録音でも使ったのかと思ってたら、後で調べるとなんとトロントの新人バンドの演奏だと分かってビックリ(@_@;)
ブルース・ペニンシュラというグループで、ファースト・アルバムを出したばかりらしい。分類すると、オリジナル曲と伝統曲を半々ぐらいに演奏するトラディショナル・バンドということになるようだ。

こいつには驚いた 宗教歌の熱狂的・因襲的な部分まで意図的に演奏しているとなればただ者ではない。また、映画の中での使い方もまた巧みだ。ある時は素朴に、またある時は呪歌のように見る者の心にまとわりつく。

主演のP・ストーメアは映画やテレビで脇の悪役という役柄でしか記憶に残っていないが、衝動と信仰の迫間で迷いまくる男を好演である。

ところで、殺人現場を説明するセリフに「周囲80キロ圏内には数軒しか家がない」とか言ってたように思うんだけど……原発作るんなら、狭い日本でなくてこういう所に作って下せえ(^^;ゞ


宗教度:9点
迷える子羊度:9点

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