「ブリューゲルの動く絵」:この絵を見よ
監督:レフ・マイェフスキ
出演:ルトガー・ハウアー
ポーランド・スウェーデン2011年
予告の印象では、「再現ドラマ」(?)を交えながらブリューゲルの絵をデジタル処理で動かしたりしながら、画家の半生をたどる--みたいな印象だった。
しかも、ブリューゲルをルトガー・ハウアーが演じ、シャーロット・ランプリングとマイケル・ヨークが共演となれば見に行かずばなるめえよ。
しかし……大いなる勘違いであった。ブリューゲルの絵が動いて楽しいな(^_^)ノなんて映画ではなかった。実にヘヴィな宗教的作品であったのだ。新年最初に見たが、まことにお屠蘇気分にはふさわしくない内容である(v_v)
ブリューゲルというと当時の風俗や日常生活を描いた絵を思い浮かべるが、数少ない宗教画にして大作『十字架を担うキリスト』は、彼の生きたフランドル地方の人々をそのまま登場させながらキリストの受難を描いたものである。
そこに細かく描きこまれた様々な場面を、画家本人がスケッチしながら解説し、当時の民衆がそれをリアルに再現するという趣向。
絵画に登場する赤服の騎乗の兵士たちはスペイン軍で村民たちに暴力をふるう。背景に新教・旧教の対立があるわけだが、イエスの逮捕はその弾圧と重ね合わせられている。
そして、獄から引きずり出され十字架を背負い--と、埋葬(というか岩屋に転がすだけ?)までの過程を極めて子細に再現。見てて苦しくなってくる。ムチ打ちの場面なんか見るだに痛そうでギャーとか叫んじゃうのだ。
原題は「風車と十字架」で、高い丘にある風車は神の存在を示しているとのこと。
他には処刑されて雨ざらしにされた男をカラスがつつくところとか、子どもたちが様々な遊びをするところ、村民が踊る光景なども再現されている。
子どもが遊ぶ場面はかなり長くて繰り返されるのでちょっと飽きてしまった。
イエスの迫害場面はもとより、民衆や子どもの登場する場面もどちらかというと重苦しく混沌としてて、楽しくはない。
さらに今イチだったのは、絵の場面完全再現の時はなぜかストップモーションをかけるのではなく、俳優たちが動作を止めるという形を取るのだが、当然ながら子どもや動物は動いちゃう。それでも羊は大人しくて顔ぐらいしか動かさないが、馬となるとじっとしていられないので、作り手の意図に反して迫力半減というか興ざめである。さらに背景の方はリアルではなくて絵画をそのまま張り付けてあるのだから、なんか一貫性がないように感じた。
というわけで、疲労感だけが大きく、絵の世界にはのめりこめなかった次第である。
視覚面に対し音楽の方は手抜きっぽい。最後にレクイエムがかかったが、クレジットはロッティ作となっていた。時代が違うわな。
ルトさんは好演。C・ランプリングは最近、悪人の役が多かったが、ここでは聖母マリアに扮している。年齢的には壮年のイエスさんの母親にぴったり。薄幸そうな風貌でピエタ像を再現してくれてた。M・ヨークはブリューゲルにこの絵の作成を依頼したとされる収集家ヨンゲリンク役だった。
再現度:8点
民衆エネルギー度:5点
【関連リンク】
《弐代目・青い日記帳》
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コメント
確か、去年のロッテルダム映画祭の頃話題になり、注目してたのですが、結局上映されたんだろうか、オランダでは。。。少なくとも全国ロードショーはなかったし、地元のアートハウス・リュミエールでは上映されませんでした。
ブリューゲルといったら日本人にはおなじみですから、日本の方が先になったのかも。宗教戦争が舞台になってる内容的には、地元のオランダ・ベルギーでも受けそうなのに。
子供の遊戯の再現には興味あり。
でも、さわやか革命さんは、見ていて疲れてしまったのですね。
投稿: レイネ | 2012年1月15日 (日) 01時50分
ロードショーのチラシを見ると、幾つかの映画祭とルーブル美術館で上映されたとありますね。制作国がポーランド・スウェーデンとなってるのも謎。「協賛」は駐日ポーランド大使館になってるし。
ルトさんはどちらかというと「解説者」みたいな感じで、中心人物という訳ではありません。大半の描写は受難と民衆の日常描写なんです。それもイエスの十字架を職人が作る所から細かく描いていくという次第です。
受難週に上映するといいかも
子どもの遊びもなんだか殺伐として見てて全く楽しくなかったです(>_<) 全体にユーモアはほとんどなくて、ブリューゲルをやるのにそれでいいのかと問い詰めたくなってしまいました。
投稿: さわやか革命 | 2012年1月15日 (日) 11時01分