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2012年1月29日 (日)

「ルルドの泉で」:奇跡を得るのはラクダが針の穴を通るのより難しい

120129
監督:ジェシカ・ハウスナー
出演:シルヴィー・テステュー
オーストリア・フランス・ドイツ2009年

聖母マリアが出現したルルドへの巡礼の話というと、「サン・ジャックへの道」みたいな悲喜こもごもの人情話が思い浮かぶ。そのままだったらパスするところだけど、予告を見ると奇跡をめぐって人々にトラブルが起こるシリアスな話のようだった。
しかし、実際に見てみるとそのどちらでもなかったのである……。

ルルドの泉の水には重病でも癒す力があると信じられていて、多くの人が訪れるという。ツァーが組まれて、健康な人も病人もお参りする--あまりにも大勢がお参りするので、そこはまるで巨大なテーマパークみたいだ\(~o~)/ スピーカーから「アベ・マリア」の曲が流れ、人々はぞろぞろと行列して順番待ち。これにはちょっと驚いた。

ヒロインは難病で手足が動かない。ツァーに参加したのは病気の治癒よりも観光の方が主な目的だ。サポートする修道会のメンバーは若い男女がほとんどで、スキー行くよりボランティアやってみっか(*^^)vみたいな気分で来ているのが語られる。

ところがツァーが進むうちに、な、なんとヒロインの身に奇跡が起こったのだ
一同大喜び……かと思えば、そういうわけではない。「大して信仰深くなさそうなのに、なんで彼女に?」とか「あの母子なんて毎年お参りしてるのにねえ」などと妬み嫉み噴出するし、ボランティアのリーダーは「奇跡なんてないよ」的に最初からさめている。

さらに教会の「奇跡」の認定制度も不可解。確かにやたらと奇跡を名乗られても困るが、一体科学的に定義できるのか? 早い話が、今ここにイエスさんが出現して死人を蘇らせたとしても「明日、またポックリ行ってしまうかも知れないので奇跡かどうかはとりあえず保留」なんてことになりかねない。

取り上げる題材は非常に宗教的だが、映画自体は「宗教」に辛辣である。
信者が同行する神父に問いを投げかけても、彼は「神はあまりにも自由なので、人間にその意図をはかることはできず」……って、そんなの誰にでも言えるわい
きらびやかな典礼を行いそそくさと通り過ぎていく司祭、聖母マリアの土産物が並ぶホテル、おごそかだけどパターン化された「泉」の儀式など。
監督が描きたかったのは「奇跡」ではなく、奇跡の前で蝋燭の灯のように揺らぐ人間の心のあり様なのだろう。

女性監督だけあって、登場する女たちの描写も細かい。常に辛辣な意見を述べるオバサン二人組(ただし、微妙に性格は異なる)、厳格な女性ボランティアのリーダー(なぜか不可解な行動をとる)、ヒロイン担当のボランティア娘は気力体力若さではちきれそうだし(口を開けるとどこかへ飛んで行ってしまう風船みたい)、影のような同室の老婦人(彼女の存在は何かの寓意なのか?)といった具合。

もっとも、作品全体は決して饒舌ではなくセリフは思ったより少なかった。特にヒロインが前半あまり喋らないのは意外。その背後には透徹した描写があって、淡々と突き放したタッチである。
監督はミヒャエル・ハネケのスタッフだったそうで、確かに似ているがハネケ作品ほどそっけなくもないし冷酷でもない。

どのようにこの話を収めるのかと思って見てたら、その結末には意表を突かれた。そこには人生のある一瞬--人が全てをあきらめ、その運命を受け入れざるを得なくなる、そんな瞬間が見事に描かれていたのである。
映画館から坂をトボトボと下って渋谷駅に着いた頃に、涙がボヤ~ンとにじみ出てきた。そういう結末だ。


どんなに出来がよくても、見た人の感想がすべて同じになってしまう映画だと、他人の感想を読む意欲はあまりわかないもんである。しかし、この映画についてはみんな意見がバラバラだ。ラストシーンについても、私と正反対の解釈をしている人がいて驚く。
確かに結末も含めて何一つ明確なことはハッキリ述べられていないけど……見た人の意見がこうまで違うというのもなかなか珍しい。それだけに、作中の様々な描写が「あれはどうだったのか」と気になってくる。

チラシを見るとなんだか女性映画みたいだし、ネットではサスペンス映画みたいな宣伝をしていた。だが実際にはそのいずれでもないし、一言でジャンル分けもできない。配給元は宣伝が難しくて悩んだ様子がありありだ。ご苦労さんです。


世俗度:10点
神聖度:5点


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