「無言歌」
監督:ワン・ビン
出演:ルウ・イエ
香港・フランス・ベルギー2010年
革命の後で、「言いたいこと言っていいよ、批判大歓迎」と太っ腹なところを見せておきながら、一年経ったら手のひら返しで批判を口にした奴らをまとめて収容所送り--とは、さすが権力闘争を勝ち抜いてきた人間は違う。自らの権力を維持するためにはなんでもありだ(*^^)v
これは文化大革命よりも前に毛沢東がやった「反右派闘争」によってゴビ砂漠の強制労働収容所に送られた囚人たちの生活を描いた映画である。
国全体を襲った飢饉もあって、常に彼らは過酷な飢えにさらされ、地下に掘った穴倉で暮らし、そこには絶えず砂が舞い込む。
男たちの顔は汚れ誰が誰やら区別もつかない。砂嵐の中を食い物を探し回り、夜になれば砂だらけの寝具に潜って寝る。もはや人間らしさのかけらも残っていない。その繰り返しが延々と描写される。
監督は若手ドキュメンタリー作家のワン・ビン。やたらと長い作品(9時間とか14時間とか)を撮ってる人だと記憶してたが、これが長編劇映画の初作品らしい。当時の生存者に取材して作ったとのこと。
内容が内容だけに中国ではほとんどゲリラ撮影で上映もされてない。ベネチア映画祭には、詳細を隠して持ち込まれたそうだ。
ある者は病に倒れ、ある者は逃走を企て、またある者は残る……。
荒涼とした情景と風の音と生気を失い幽鬼のようにたたずむ人々の姿が、圧倒的な迫力で見終わった後にまで焼きついて離れない。
ただ、ドキュメンタリーぽい作りなので、劇的な盛り上がりなどはない(音楽もなし)。睡眠不足の時は避けた方がいいかも。
それと、夫が亡くなったことを知らずに訪ねてきた妻のくだりは、どうもいただけない所があった。泣き方がなんかわざとらし過ぎというか…… ほんとに悲しかったら涙も出ないし、泣くのは結構体力使うから、あんなに延々と泣いてられないだろう。
女の泣き声も、風の音と同様の効果音なのかね。
多くの感想や批評で絶賛状態だが、かなり見る人を選ぶ作品ではある。というより、イヤな人は最初から見に来ないか。
ところで見ていて頭の中にぼーっと浮かび上がってきたのは、以前読んだ太平洋戦争の終戦時にフィリピンをさまよっていた日本兵の手記だった。うろ覚えだが、およそ口に入るほとんどの物は食べたと書いてあって、さらに「今思えば火薬も食べてみればよかった」とあった。
そうか……火薬って食べられるんだと思った次第である。
砂嵐度:10点
人間度:2点
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