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2012年2月28日 (火)

「エンチャンテッド・アイランド 魔法の島」:なんちゃってシェイクスピア

120228
METライブビューイング2011-2012
演出:フェリム・マクダーモット
指揮:ウィリアム・クリスティー
出演:ジョイス・ディドナート他
2012年1月21日上演

メトロポリタン歌劇場のライブビューイングも二回目。『ロデリンダ』に続いて鑑賞したのは、バロック・オペラにして新作……とは一体なんじゃろう(?_?) と疑問に思ったら、パスティーシュというヤツで、ヘンデル、ヴィヴァルディ、ラモーなどの名曲を集めて編曲し直して、新たにストーリーを作ったのだという。歌詞もほとんど英語で付け直している。

物語はシェイクスピアの『テンペスト』と『真夏の世の夢』を合体させたものだ。妖精アリエルが魔法を失敗したために、プロスペローが支配する島へ流れ着くのが、間違って『真夏~』のカップル二組になってしまう。
一方、島の片隅からは魔女のシコラクスとその息子キャリバンが島の支配権を取り戻すべく、虎視眈々と窺っていたのであった。

アリエルは妖精パックも半分入ったようなキャラクターでドジな魔女見習いみたい。オペラ界のアイドルことダニエル・ドゥ・ニースがまたぴったりとハマりまくってる役柄なんで感心して見ていた。しかし、幕間のインタビューによると台本を作る段階から主な歌手の意見を取り入れた部分があるとのことだ。
……て、ことはほとんど当て書き状態ではないの。道理ではまり役なはずである。
ならばP・ドミンゴ扮する海神ネプチューンの登場時に、人魚が舞い踊ってまるでドミンゴ来たキタきた~~っ(!o!)状態なのも当然だろう。

最後にアリエルは解放されて自由の身に(ルイ14世の太陽王をもじった衣装で派手に登場して笑いを取っていた)、カップルは元のさやに納まり、ミランダは美男のムコを得、プロスペローは悔悟し、魔女は再び島を取り戻して、メデタシメデタシで終わる。
ただ、キャリバンのヨメ取り問題だけが放置しっぱなしなのはいかがなもんよ。バロック・オペラだからって、極めて現代的な非モテ男問題を放置していいということにはならんぞ。

舞台装置はセットに映像を投影する形で、嵐の海や幻獣が出没する森などを巧みに表現して素晴らしいものだった。クリスティーの指揮は無難?という印象か。
魔女役のJ・ディドナートは徐々に変わっていくキャラクターをうまく演じ分けて、さすがにクレジットのトップに来るだけはあるだろう。


さて、この「新作」の評価はというと、ネットで他の人の感想を見てみるとどれも絶賛ばかりである。
だが、正直私は見ていて前半の途中あたりからどうも「これって、もしかして面白くないんじゃないの」と感じるようになった。
そもそも複数の話を合体させたのが無理がある。主役級が何人もいるのでそれぞれを立てなくちゃならないから、話の焦点が定まらずに散漫。それから「主役未満、脇役以上」のキャラクターも多いのでそれも放置するわけにはいかず、見せ場を少しずつ分け与えなくてはならない。
ミランダなんて島の中をウロウロしてるだけの退屈な役どころ。ヘンデル先生だったら絶対にこんな人物を出さないだろう。

喜劇で大円団というのは結構だが、現代の価値観に沿って当たらず障らずみんな揃って丸く収めて中庸に(ただし、除くキャリバン)と詰まらないラストになってしまった。
早い話が、ここにはシェイクスピアの風刺や毒々しい笑い、幻想やダイナミックさは存在しない。
まるで、オールスター総出演でお茶を濁すハリウッド娯楽映画のように大味で退屈だ。とても拍手なんかする気にはなれない。
形だけなぞってるからこそ「パスティーシュ」というのか……


見ていて途中、やはり会場が暑くてマイッタ。鼻がムズムズするんでマスクしていたら、顔に汗をかいてしまったよ。


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