「ピーター・ブルックの魔笛」:宙を舞う笛
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2012年3月22日~25日
賛否両論真っ二つに分かれた意見が飛び交った公演である。
演劇サイドからすると、腐ってもピーター・ブルックであり(腐ってないけど)、さらにオペラ面から見るとモーツァルトの名作「魔笛」だ。公演前から注目されるのは当然だろう。当日券も出たらしいが、連日満員御礼だったようである。
しかし、私個人は正直に言うと、ピーター・ブルックの芝居はもとより「魔笛」さえ見た(聞いた)事がないのだった……音楽的にモーツァルトは守備範囲外なんでね(^^ゞ
年末にNHK-BSでミラノ・スカラ座公演の放送があったのを録画しとこうと思ったのだが、すっかり忘れてしまった。
というわけで「魔笛」のあら筋のみ事前学習というお粗末な態勢で行ったのであるよ。
結論から言うと、これはオペラではなく芝居として鑑賞するものだろう。
上演時間は半分、細かい登場人物はカット、アリアも減らされ、フランス語のセリフがかなり入る。伴奏はピアノ一台で、舞台装置は竹の棒が数十本という簡素さだ。
アフリカ系の男優二人が歌手たちに絡んだり、竹の棒を動かしたり、ヘビの役をやったり--。また、ハパゲーノと共に客をいじって笑いを取ったりもしてた。
だが、何よりも演劇だと思ったのは、歌手たちの歌が完全に私の脳内では台詞として処理されていたことである。そうすると、夜の女王のあの高音は娘と王子を呪縛する恐ろしい呪文に他ならなかった。またパパゲーノとパパゲーナの二重唱は、はじけるような出会いの喜びの表現だった。
なるほど確かにモーツァルトのではなく「ピーター・ブルックの」魔笛なのであった。
だから、モーツァルトのオペラを期待してきた人はかなり不満だったろう。
また、年季の行った芝居ファンも「いかにもブルック風で予想以上のものはなかった」とクサす人もいたが、それこそ腐ってもピーター・ブルック(腐ってないけど)の所以だろう。
もっとも、オペラ・サイドでもツイッターで執拗に悪口(批評というレベルではない)を連投してた人がいたところを見ると、作品自体の簡素さとは裏腹にそういう反応を弾きおこしてしまう何ものかが作中にあるのかもしれない。
私は裸足で舞台上を動く歌手や俳優たちの動作に、昔、毎週のように演劇通いをしていた頃の感覚を思い出した。あの身体が放つ輝かしきエナジー……
また芝居を見に行きたくなってしまったが、今の芝居を見てもそういう身体性を感じられるのは滅多にないからなあ(+_+)
歌手はザラストロ役のバスの人がちょっと低音がアヤシイ感じで残念だった。事前には知らなかったのだが、埼玉公演だけダブルキャストだったらしい。私が見たのは母娘が共に金髪で、この後北九州市やびわ湖ホールにも出演する方のキャストである。「黒髪」組も見てみたかったなー(^^♪
ダブルではなかったパパゲーノ役のヴィルジル・フラネはコメディ演技も達者なもんで会場を笑わせていた。
とにかく、一見の価値はある舞台だった。
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コメント
「あの身体が放つ輝かしきエナジー」って、良い言葉ですね。
ただ、パパゲーノですが、あれは儲け役で無茶苦茶にオモロイ人が沢山います。関西には晴雅彦と云う抱腹絶倒のオペラ役者がおりますので、機会のあればご覧になって下さい。
投稿: Pilgrim | 2012年7月 1日 (日) 16時50分
晴雅彦はしばらく前の結城座に出てましたな。
http://pretzel-logic.way-nifty.com/blog/2012/03/post-6d90.html
この公演では音楽中心でなくて「芝居のついでに歌も」という感じだったので、歌手というより役者としての印象が強かったです。
投稿: さわやか革命 | 2012年7月 3日 (火) 07時28分
さわやか革命さん、それは“トルコ・マーチ”の斎藤晴彦でしょう。
僕のお勧めはパパゲーノを当り役とするバリトン歌手で、こんな感じの方です。
↓
http://www.youtube.com/watch?v=6k0PBRCJxDw
投稿: Pilgrim | 2012年7月 8日 (日) 18時52分
あわわ(@_@;)完全に勘違いしてました。
すいません。ドジであります_(._.)_
投稿: さわやか革命 | 2012年7月 8日 (日) 22時33分