「毒婦。~木嶋香苗100日裁判傍聴記」
著者:北原みのり
朝日新聞出版2012年
「お金が無けりゃだめ 卑猥な中年男は特に」「Brand markが大好き 貴金属物が大好き」(吉田美奈子「GOTHAM GOTHIC」より)
いや~、これは面白い
……死者が出た事件に関して面白いなどとうかつに言っちゃいけないが、この本あっという間に読んでしまった。
著者がこの「首都圏連続不審死事件」に興味を持ったのは、被告がどういう人間か理解できず、共感も同情もできなかったためだという。
そして長期に渡った裁判を傍聴したのであるが、意外にもオシャレな彼女に驚く(拘留中なのに)。そして優雅な動作と優しい声……。おまけに昼の休憩中に髪や化粧を整えているらしい。何か「ブス」などと報道されていたのとはいささか異なるのだ。
私の最初に浮かんできた感想は「なんでそんな簡単に金を出す?」と、これは付き合った複数の男性たちについてである。一度会っただけでメールのやり取りで多額の金を送ってしまう。そこでの彼女の売り込みポイントは、介護士の資格を持ち料理が得意でピアノも上手というものであった。
実際に会って薬物を飲まされて意識不明になっても、また会う約束をしてしまう。
木嶋被告のヌエ的な存在の前に明白に晒されるのは、むしろあまりに無防備な独身男性たちの姿なのだった。
そして著者は「女目線」で出廷するその男性証人たちを直截にチェックし感想を述べる。かなりシビアである。それは男検事や男弁護士に対しても同様だ。
そして「香苗は殺人だけでなく、愛を問われている」と悟る。「愛とお金の問題は、香苗の人生そのものだ」「男性検事は、香苗の「女」そのものを、問題にしているように思えた」
最終章では被告の故郷へ向かいその生い立ちをたどる。両親との関係に何か齟齬があり小さな町から決然と出て行った少女の姿が浮かび上がるが、だからと言って何が分かるというものではない。
判決の如何にかかわらず、著者は木嶋被告が「男社会に裁かれている」と考えているようだ。この言い方が悪いのなら「男目線がスタンダードな司法の場によって裁かれている」と言い換えよう。そして、「ブス」と騒ぐマスメディアもまた「男目線」のようだ。そのような場では決して真実は明らかになることはない。
一体、「愛」を裁判で裁けるのかね?
このような観点が気に入らないという人は多いだろう。しかし、私には新鮮で面白かった!。
この後に佐野眞一の本も出たが、以前、東電OL事件の時彼のルポをよんでいささか辟易してしまったので、今回はパスするとしよう。
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