「ムサン日記~白い犬」:黒い心白い夢
監督:パク・ジョンボム
出演:パク・ジョンボム
韓国2011年
たまたま韓国映画を続けて鑑賞。しかしこれは『サニー』とは正反対な作品である。完全ノーマークだったが、他に見に行きたい映画がない時に、他人の感想を読んで見てみっかと思い立ったのだ。
なので、あまり期待しないで行った。
主人公は北朝鮮から中国を経由して脱北してきた若者。こういう境遇の人々は韓国に2万人もいるのだという。都会でもロクな職がなく脱北仲間の友人のアパートに居候状態である。
与えられた身分証明書の番号は脱北者だとハッキリ分かるように付けられていて、一般市民扱いされない「格差」も存在する。
教会の合唱隊で見かけた娘に惹かれるが、金もなく外見も冴えない彼には声をかけることさえできない。
小遣い稼ぎのバイトもうまくこなせず、羽振りのいい友人には引け目を感じ、心の慰めは聖歌を聞きながら聖書を読むことと、町で拾った白い犬だけ……という出口なき毎日の連続が描かれる。
はがれかけたポスターの光景が、主人公の行き場のない閉塞感を表わして強烈な印象を残すだろう。
しかし--友人が金のトラブルを起こしたことから転機が訪れたのである。
主人公はまともな人生を得たいと思っただけかも知れない。だが、それは期せずして、彼が教会で告白した北にいた頃に犯した過ちと同じようなことを、繰り返すことになったのだった。誰がそれを責められようか。とはいえ、罪は罪だ。
随所に挿入される韓国語による聖歌。特に終盤の「アメイジング・グレイス」の平穏さが心にしみる--と同時に不安も感じさせる。
そして、結末は果たして神の采配なのか、ただの偶然なのか? なるべくしてなったのだろうか。
宣伝のコピーには「衝撃のラスト!」とあるが、それは少し違うだろう。ただ、観客は主人公を呆然と眺めるのみ。そして、ラストシーンの後の字幕がさらに追い打ちをかけるのであった(@_@;)
ストーリー、演出、映像、どれをとってもお見事である。
韓国映画の新人で監督・脚本・主演……というと『息もできない』をどうしても思い浮かべてしまう。その後ヤン・イクチュンの方は次作(監督にしても出演にしても)の話はどれも潰れてしまったようだが、こちらのパク・ジョンボムには頑張って欲しいもんである。
ただ、一つ疑問なのは「ムサン日記」というタイトル。英語題名をそのまま訳したようなのだが、さてその意味は?
ムサンは北朝鮮の町で、もちろん作品内には登場しないのであるよ(?_?)
なお、これは『ヒューゴの不思議な発明』や『アーティスト』も超えた今期最大の「犬映画」に間違いなし。犬嫌いも号泣だいっ。
犬度:9点
人間度:5点
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《ノラネコの呑んで観るシネマ》
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