« 聴かずに死ねるか:マイナー・コンサート編 7月版 | トップページ | 「...Viva Napoli!!!」:ナポリを見て、聴いて、食べて死ね »

2012年7月 5日 (木)

「別離」:消え行く家族

120704

監督:アスガー・ファルハディ
出演:レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ
イラン2011年

前作『彼女が消えた浜辺』がかなりの出来だったアスガー・ファルハディの新作は、数々の映画賞を獲得し、遂にアカデミー賞の外国映画賞までゲットcrown 授賞式での「戦争よりも文化を」という格調高いスピーチも強い印象を残した。

作品自体の内容は家族のいさかいを描いたものである。前作と同様、イスラム社会特有の要因とどこの国でもありうるトラブルが絡み合って描かれている。

夫は銀行員、妻は英語教師という夫婦が、妻が家を出て行ってしまったことで老父の介護のために家政婦を雇う。しかし敬虔なイスラム信徒である家政婦は家族でもない男性の世話していいのか混乱する。やがて事故が起こる--いやそれとも起こったのは犯罪なのか?

妻がなぜ別れようとするのか明確には描かれていない。表向きは海外移住に夫が同意しないせいなのだが--。老父の介護がイヤだからだろうという意見があったが、夫が逮捕された時には実家へ連れて行くぐらいだからそうとも思えない。
冒頭場面の離婚調停(?)の場では、二人の意見は堂々巡りrecycleで決してかみ合うことがないのだった。

家政婦の夫は最初、粗野な乱暴者として登場するが、終盤に至って実は銀行員の方がどうしようもない頑固者であることが徐々に露わになってくる。なんとか丸く収めようとする妻の意見にも娘の願いにも耳を貸すことはない。

二つの家庭の間には階層差があり、それが反目の原因の一つだろう。同時にそれぞれの家庭内にも問題が存在する。
トラブルによって隠されていたそれらは噴出し、決して解決されることはないのだった。
映画の感想を見ていると「この物語には悪人が存在しない」というような言い回しを目にすることがあるが、この映画には確かに悪人はいないけど善人もまた登場しない。皆が皆(小さな子どもでさえも)本心を隠し、それがまた予期せぬ事態を招くのである。

これは男女、年齢など個人の立場によって全く見方が異なってしまう作品だろう。同じものを見ていながら違う部分を見ているような……。
それにしても、個人的には夫の頑固さに驚いた。そこまで面子が大切か(?_?;
「コーランに誓え」の以降の展開はいかにもイスラム教特有の問題であるように思えるが、先日米国のTVドラマ「Law&Order」でも同じような状況が出て来て驚いた(こちらは当然聖書だが)。

一度見ただけでは把握しきれないような緊密な対話劇でもあり、全編に緊張と謎が張り付いている(音楽の使い方もよかった)。見事な演出と脚本といえるが、息詰まり過ぎでくたびれてしまう感もあり。そういう点で、個人的な好みとしては『彼女が消えた浜辺』の方が上かなー(^^ゞ
いずれにしろ、現在最も要注目な監督の一人には違いないだろう。次作も期待大です。

ところで、驚くのはこれがイラン国内で大ヒットしたということである。日本でこの手の題材の映画を作ってもせいぜい単館ロードショーじゃないだろうか。というか、企画の段階でボツ?


家庭内紛争度:9点
社会対立度:9点


|

« 聴かずに死ねるか:マイナー・コンサート編 7月版 | トップページ | 「...Viva Napoli!!!」:ナポリを見て、聴いて、食べて死ね »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/82416/55123820

この記事へのトラックバック一覧です: 「別離」:消え行く家族:

« 聴かずに死ねるか:マイナー・コンサート編 7月版 | トップページ | 「...Viva Napoli!!!」:ナポリを見て、聴いて、食べて死ね »