「オレンジと太陽」:子どもに親は選べない
監督:ジム・ローチ
出演:エミリー・ワトソン
イギリス2010年
監督はケン・ローチの息子。しかし全く違う作風で、親の七光りではないようである。
チラシには「英豪両国を揺るがした感動の実話!」とあるが、実際は恐るべき「児童移民」というか「児童棄民」の話だった。
養護施設に預けられた子どもたちを福祉のためと称してオーストラリアへ送る。そこでは暖かな養親と家庭が待っていた……がはずが大違い 学校も行かされずに奴隷のようにこき使われていたり、人里離れた孤児院に放り込まれたりと多くが悲惨な運命にあった。中には親が生きているのに「死んだ」と騙されて送り出された子もいる。
このような制度が1970年まで続いていたのだ。
ヒロインは実在の人物で児童福祉に携わるソーシャル・ワーカーだったが、親探しの相談を受けてこの事実を知る。行政の援助を取り付け、調査のために英豪を行ったり来たりする毎日となる。
このような被害を受けて大人になった中には、怒りを自らの内部に向ける者と逆に外部へと向かう者に分かれるようだ。既に中年となったそんな孤児たちと知り合ううちにさらに恐ろしい事実が続々と明らかになるのだった。
自らの家庭の危機やPTSDに苦しんだり、さらに双方の政府から(だけじゃなく市民からも)の非難も押し寄せてくる。「でっちあげ」とか「国の恥をさらしやがって」とかその類のことをいうヤツはどこにもいるってことだろう。
それにしてもダンナさんがエエ人でよかったです。でも息子の最後の一言には苦笑。
このような事実自体衝撃的だが、主役のエミリー・ワトソンは決して英雄的でも攻撃的でもなく、地道に自らの本分を果たそうとする女性を着実に演じている。他の役者も好演。正直言ってヒューゴ・ウィーヴィングがこんなに名優だとは思わなかった。お見それしてすいませーんm(__)mペコリン
演出の方は手堅いの一言。間違っても派手に煽り立てたり、編集で切り張りしたりというような手法は使わないタイプと見た。
ところで、私がこの作品に興味を持ったのは『忘れられた花園』(ケイト・モートン)という本を読んだからである。去年のミステリ・ベストテンでも高位に上がった小説だが、やはり英豪を舞台にしており、大勢の子どもが乗せられてオーストラリアに向かう船が登場する。
それは第二次大戦よりも前の時代のエピソードである。この「児童移民」は19世紀から行われていたというのだから、小説に登場するのは間違いなく孤児を運ぶ船の一つだったのだろう。
さて、オーストラリア政府が事実を認めて謝罪したのはなんと2009年、イギリス政府は2010年だったという……(-"-) つい最近のことじゃねえか~
地味度:8点
残酷度:9点
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コメント
もう十年近く前になるかと思いますが、イギリス児童(孤児)のオーストラリア移民(棄民)を扱ったTV映画が数回のドラマ・シリーズとして放送されたのを観ました。タイトルを覚えていないのが残念。
ほとんど国ぐるみの偽善行為にだまされて送り出される子供達の直面する厳しい船旅とオーストラリアでの現実が寒々しかったです。そのTV映画では、戦前の話になってたと記憶しますが、1970年代まで続いていたとは、背筋がぞ~。イギリスおよびアイルランドの移民で出来上がった国々って、囚人だとか食い潰れた農民とか、基本的に棄民政策の一環の賜物であることは、まあ歴史的事実なんですが。
投稿: レイネ | 2012年7月10日 (火) 03時18分
確かに、まだ「最近」の話なのには驚きです。
親がまだ生きていて、再会を果たすエピソードも登場しました。
|イギリスおよびアイルランドの移民で出来上がった国々
米国もその一つですかね……(^^;
投稿: さわやか革命 | 2012年7月12日 (木) 07時20分