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2012年10月21日 (日)

「壊された5つのカメラ」:この苦渋に満ちた世界へ

121021
パレスチナ・ビリンの叫び
監督:イマード・ブルナート、ガイ・ダヴィディ
パレスチナ・イスラエル・フランス・オランダ2011年

これまでパレスチナ問題のドキュメンタリーというと、日本人を初め外部の人間が撮ったものばかり見てきたが、これはパレスチナ人自身による作品である。

ビリン村に住むイマードは生まれたばかりの四男の成長記録を撮ろうと、ビデオカメラを買う。ついでに村の行事の記録係にもされてしまうが、その頃イスラエルによる分離壁の建設が始まり、村の農地が分断されることが判明したのだった。
カメラは息子の成長と共に、村民の非暴力の抗議デモを撮り始めることになる。
しかし、そのカメラはイスラエル兵士に撃たれて壊れてしまう--。

そのように5年間の間に5台のカメラが壊されるに至った経緯が描かれる。
間断なき暴力、抗議の非暴力デモ、撃ち込まれる催涙弾、逮捕される肉親、夜中に訪れる兵士。「古い傷がいやされる前に新しい傷ができる」--しかし、その間も様々な形で抗議は続いて行く。いや、続けねばならないというべきか。

だが、語り手であるイマードには不断の闘志ではなく、鬱屈あるいは暗い怒りが淀んでているように思えた。幼い息子がこれから憎悪に満ちた世界を知っていかねばならないからだろうか。
ようやく壁が取り払われても、その鬱屈は消えることがないようだ。冒頭に親友として紹介した二人の村人が五年の間にどうなったかを考えれば仕方のないことだろう。

カメラに映される最後の映像は、普通のホームビデオのような内容である。だが、他所ならば「日常」の光景がここではそうではないことに深い悲しみが伝わってくるのだった。

最近見た幾つかのドキュメンタリーはつまらなくはないが、なんだか特別な人物、突出したキャラクターを撮れば作れてしまうような印象を受けた。
それに比べるとこの作品はまさしく記録すること、ドキュメンタリーの本質を改めて思い起こさせるものだった。
なお共同監督はイスラエル人である。

関係ないことだが、息子の誕生日に家族で「ハッピー・バースデー」の歌を歌っている(もちろん英語のまま)場面があってちょっと意外に感じた。へー、バレスチナ人も歌うんだー(・o・)……てな感じ。
よくよく考えると、日本でも誕生日に歌う歌って他に思い浮かばない。もしかして、世界で一番よく歌われている歌ではないだろうか。


平和度:3点
暴力度:9点


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