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2012年12月15日 (土)

「声をかくす人」:さまよえる正義

121215
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ジェームズ・マカヴォイ
米国2011年

「リンカーン大統領もの」作品が相次いで公開されて、これもその一つ。今なぜリンカーンなのかっというようなことは置いといて、ロバート・レッドフォードが監督業オンリーで挑んだ、今どき珍しい正統的社会派映画である。

リンカーン大統領暗殺犯の中に米国で初めて死刑になった女性がいたというのは知らなかった。
南北戦争で北軍の将校だった弁護士がその弁護を頼まれる。元・南軍の兵士である犯人たちが宿泊していた下宿屋の女主人なのだが、共謀を疑われ、民間人にもかかわらず軍法会議にかけられているのだった。

予告だと被告の女主人の謎をめぐるミステリ・サスペンスみたいな印象だったが、実際は全く違って、純然たる法廷ものだった。
時代が1865年で裁判制度も今とは違い、しかも軍事裁判だというのだからかなり様子が違う(作中で当時の制度についてほとんど説明されていないのが難)。

問題の中心は、民間人である彼女を軍法会議で裁くことと、果たして死刑にするだけの罪を犯したのかということである。
主人公は検察側の証拠でっち上げや証人の偽証誘導に直面することで、最初は気乗りしなかったのが逆に発奮することになる。検察の不正はいかにも150年前の裁判ということで現在はこんなことはない……ん?日本では現在も起こっているではないかなんと日本は一世紀半も遅れている?(>O<)ギャー

しかし、政府側は国家分裂の危機に際し、事実はどうでもよく犯人達をさっさと死刑にして終わりにしたいのであった。主人公は「国が崩壊したら法も人権もない」と言われる。

一方、彼は「法や人権を無視して罰しようとするのは正義ではなく復讐である」と主張する。
ここに至って、映画の作り手の主題は南北戦争時代の話ではなく9.11以降の世界のことだと判る。テロの嵐が吹き荒れ、不寛容と暴力と暴力が衝突するこの世界のことである--。まさに今、現実を語っているのだ。

ローソクやランプの時代にふさわしく照明が凝っている。また衣装や小道具、町並みの再現も時代物として文句なし。ワシントンて昔はのんびりした田舎だったのねー、なんて思っちゃった。
役者も芸達者が揃っている。ケヴィン・クラインは髭と太ってるせいで気付かなかった。裁判官(?)役はどこかで見たなーと思ってたら、スタトレのオブライエンことコルム・ミーニイだった。
しかし何と言っても迫力だったのは、女主人役のロビン・ライトである。喋り方といい、佇まいといい、なんだかアウグスト・ザンダーの古いポートレート写真から抜け出してきたような「昔の女」を完璧に演じている。美人だとは思ってたが、ここまでデキる女優さんだとは全く思ってなかった。おみそれしましたm(__)m
娘役のエヴァン・レイチェル・ウッドはちょっと美人過ぎかな。

主役は「永遠の若僧」風のJ・マカヴォイ。他の登場人物はセピア色にかすんでいるようなのだが、彼だけは何か現代的なイメージである。恐らくは今の観客が感情移入できるように計算してそうしているのだろうか。

実は、レッドフォードの監督作は今までロクに見て来なかったのだが、思わず反省してしまった。それぐらいに堂々たる社会派ぶりということだ。ただ、法廷ものに興味のない人にはオススメできないかも知れない。

それにしても邦題は全くもって意味不明 
同じ劇場のレイトショーで『リンカーン/秘密の書』をやってたのはネタですか(^^?)


リンカーン度:3点
良心と正義度:9点


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