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2012年12月29日 (土)

「トロイアの女たち」:ニナガワ、またの名をオバハン泣かせ

121229
作:エウリピデス
演出:蜷川幸雄
会場:東京芸術劇場プレイハウス
2012年12月11~20日

チラシに「世界のニナガワが挑む、最も過激なプロジェクト」とある。何が過激かというと、役者に日本人、ユダヤ人、アラブ人を対等に起用してギリシャ悲劇を上演しようというのだ。その心意気やよしっ!
もっとも「ユダヤ人」「アラブ人」といっても双方イスラエルの劇団に所属する俳優である。この年末から正月にかけてはイスラエルでも公演するとのことだ。

いわゆる「トロイの木馬」作戦で壊滅状態となったトロイアの地。夫や息子を殺された女たちは国を追われ、ギリシャの都市へと船で送られるのを待つ。
トロイアの王妃ヘカベ(白石加代子)の怨念に満ちた嘆き、それにコロスの女たちが呼応する。

荷物を抱え薄汚れた女たちの姿は、ホロコースト下のユダヤ人、パレスチナ難民、日本においては震災で住み慣れた家と土地を失った被災者を思い起こさせる。

しかし、どうだろうか。
コロスは三つの民族の女優たちに五人ずつ平等に割り当てられ、それぞれが日本語→ヘブライ語→アラビア語の順で全く同じセリフを繰り返すのだ(日本語以外には字幕が出る)。正直、早送りで見たくなってしまう(^^;)
まあそうなると、同じセリフでもそれぞれ発声や身振りが違うなあ--とか、そんなことを考えて見てるしかないわけだ。
さらにヘカベ以外の主要キャストもそれぞれ民族ごとに平等に割り振って、見せ場ができている。

だが人数と時間を平等に割り当てて異民族文化交流だと言われても、肝心の芝居に退屈な部分が生じるんじゃどうしようもあるまい。題目良ければすべてよしというのでは、政治家の演説を聞いているのと変わらないではないか。
私は、倉多江美の昔のマンガ『スーパー民主主義』というのを思い出した。見開き2ページだけのショートショートみたいな作品である。小学校で「狼と赤ずきん」を学芸会の芝居でやろうとしたら、狼と赤ずきんの二人しか出られないのでは民主主義に反するのではないですかと、子どもに教師が言われた。それで急きょ、赤ずきん役が20人、狼役が20人、ドドドッと一斉に舞台に登場するようにしたのであった--。
なんだかそんな感じだ。

それと、他言語のセリフが分からないからどこで終わるかタイミングが分からなくてかぶってしまったり、飛ばしてしまうということも何度か起こった。
どうせだったら、コロスのセリフを三グループが一斉に叫ぶという形にすればよかったのに。何言ってるか分からなくて、異文化間のコミュニケーションの困難さが伝わったかも知れない。

それは別として、役者の演技は見どころ多数だった。なんといっても、白石加代子はド迫力の一言。延々と地を這うような恨み節を繰り出して、観客を情念の渦に巻き込むのであった。
ヘカベの娘カッサンドラ役は若いユダヤ人女優(美人shine)で、花嫁衣装をまとって絶えず踊るように狂躁的に不吉な予言を吐く。

対して嫁のアンドロマケを演じるのはアラブ系の女優。これが幼い息子と別れる悲しみをこれでもかこれでもかと波状攻撃のように見せつけるのであった。
その場面を見ていて思い出したのだが、昔やはりニナガワ演出の『メディア』を見た時に、主人公のメディアが怨念と慨嘆(夫への復讐のために息子を殺す)を独演状態で語ると、中高年のオバハンでほとんど埋め尽くされた客席は涙とすすり泣きで埋め尽くされたのであった。
まだそれほどの年齢ではなかった私は「へー」という感じで観察してたのだったが、今やそのオバハンたちと同じ年代になった私は、アンドロマケの執念に近い嘆きに思わず涙を流しているではないか!
ニナガワ……恐ろしいオヤヂshadow いよっ、オバハン泣かせ\(◎o◎)/!

日本代表は元宝塚の和央ようかだった。彼女の名前だけは聞いていたが、初めて見た。トロイア戦争の発端となったヘレネ役で、他の女たちがほとんどドブネズミ色の衣装なのに対して、一人真っ赤なドレスを翻して登場。細身で大柄なのでまるでモデルのようflair ヴィジュアルはまさに傾城の美女にピッタリだった。
しかし、な、なんか発声がちょっと……(^^?) よく「母音の発音が悪い」というのをオペラ歌手の評なんかで見かけて、はて母音の発音とはなんじゃろうと首をひねっていたのだが、こういうことかと納得した。これは私だけなのかと思ってたら《ちゃむのバレエとオペラとちょっと読書の日々》にも書かれていたので、そうではないようだった。
いずれにしろ、出番が短いので難しい役柄ではある。

この芝居を見ていて、確か山岸凉子がヘレネの話を取り上げてたような記憶が……だが、思い出せなくて気になっていた。家へ帰って本棚を掘り返してみると出てきましたよ。
『黒のヘレネー』という短編がそれだ。これがまた山岸先生、キビシイッと叫びたくなるほどにヘレネに厳しい。恐いです(>y<;)


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コメント

「トロイアの女たち 3ヶ国語上演」という検索ワードで拙ブログ訪問者が増えたのでなんだろう、と思ってたら日本でこんなのやってたのね。息子達が通ってた高校では十年以上前から毎年、オランダ、ベルギー、ドイツの高校と共催して蘭・仏・独語の3ヶ国語によるギリシア悲劇上演してます。。。均等に出演者を各国から割り振るというコンセプトと字幕つきというのは同じですが、コロスが3カ国語でそれぞれ同じ台詞を繰り返すというのはないわ。そりゃ飽きますって。コロスだって3等分すればいいのに。

蜷川さんの『王女メディア』は平幹治郎が主役の初演を高1か高2の時、日生劇場で見ました。学校の演劇部による『アンティゴネ』などは既に経験ありましたが、本格的ギリシア悲劇の豪華絢爛舞台に初めて接して衝撃を受けました。まだ若くて、すすり泣くには至りませんでしたが。。。
白石加代子さんって、当時鈴木忠志の『バッコスの信女』で勇名を馳せていたけど、未だに現役なのね。へカベも彼女にぴったりで、さぞかし鬼気迫る迫真の演技だったことでしょう。

投稿: レイネ | 2012年12月31日 (月) 19時54分

|蘭・仏・独語の3ヶ国語

高校でもそんな事やるんですねえ。
こちらの公演では、ひたすら台詞が被らないかドキドキしながら見ていた気分です。

よくよく考えてみると、白石加代子って生で見たのは初めてだったかも。教育テレビか何かで公演録画を見たかもしれませんが。さすが人間国宝級、いや世界遺産並みでした(^_^;

メディアは平幹が当たり役だったらしいですが、私が見た時は歌舞伎役者(名前忘れてしまった(^^ゞ)が主演のヴァージョンでした。
それでも、オバサマたち(当時の)は感極まって、幕が下りてからも立ち上がれない状態でしたなあ。

投稿: さわやか革命 | 2012年12月31日 (月) 23時50分

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