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2013年1月13日 (日)

「もうひとりのシェイクスピア」:監督不詳、或いはエメリッヒは二人いた!?

130113
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:リス・エヴァンス
イギリス・ドイツ2011年

今宵、劇場で「アノニマス(作者不詳)」と題された芝居が始まる。
舞台に現れた案内人がシェイクスピアの謎について語る。自筆原稿が存在せず、遺産もろくに残さなかった。一体この人物の正体は?
と、舞台で始まる劇がそのまま映画へとつながっていく趣向だ。

その正体は、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア。高名な貴族だが、道楽にかまけて財産を食いつぶし、政略結婚の妻とは不和である。
貴族としては芝居なぞ公にはできないので、ロンドンで評判のベン・ジョンソンをとっつとかまえて彼の名で上演するように命令する。しかし、作家にも五分の魂。彼が拒否して「作者不詳」で上演すると芝居は大ウケ。そこへ、大根役者のシェイクスピアが「俺が書いたことにしろ」としゃしゃり出るのだった。

ろくでなし、ごくつぶし、逝ってよしなシェイクスピアが観客から喝采を受ける姿を、バルコニー席から見おろすエドガーの心境は複雑である。そして、また同じ作家としてのベン・ジョンソンの胸中も……。
さらに、若いエリザベス女王と出会った少年時代のエドガーの回想が交錯する。そこから宮廷に潜む陰謀が絡んでくる。

脚本はかなり面白く出来ている。あらゆる方面に才能がありながら、劇作への欲求と貴族としての地位に引き裂かれてきた男の悲劇がよく描かれている。
実際のオックスフォード伯がどんな人物だったのか知らないが、ここでは才能が有り過ぎたままそれを生かせなかった男である。現実を顧みず虚構の世界に没頭する。
そして、主人公は「剣」ではなく「ペン」すなわち虚構を描く言葉で世界を変えようとする。しかし、終盤でそんな二項対立自体が無に帰してしまうのであった。

最後の謎解きが性急過ぎるのと、人名がこんがらかってしまうのが難だ。エリザベス朝の貴族や文人の名前ぐらいさらっておいた方がいいかも知れない。

歴史ものとしても色々見ごたえがある。薄汚れたロンドン、粗末な芝居小屋、謹厳な貴族の館、錬金術師でもいそうなエドガーの書斎。雪中の女王の葬儀の様子などは特殊効果を大いに活用か。
現代の人間にすればシェイクスピアは古典だけど、当時の市民にとってはまさにリアルタイムな話だったというのもよーく分かった。
あと、本当に平土間では立ったまま見てたんかね。あんな長い芝居を見てたら疲れて足が痛くなっちゃう……
唯一の不満は音楽。当時のものはリコーダー吹きがちょこっと出てくるだけだった。

主役のリス・エヴァンスは傲慢な貴族にして不本意な人生を送った男という複雑な両面性を見せている。エリザベス女王はヴァネッサ・レッドグレーヴ。若い頃を実の娘が演じるという特殊技を使用だが、老醜のエリザベスを容赦なくさらすという女優魂を展開。女王の下着姿って珍しいね。デヴィッド・シューリスは判別付かなかった(^^ゞ
なお青年時代のエドガーを始め、イケメン男優多数登場。そちらに興味のある方は要チェックであろう。

だが、ここで問題は監督である。なんとローランド・エメリッヒ(!o!)
あの、大味娯楽破壊活劇専門のエメリッヒですよっ
(゜o゜) → (;一_一) → (^○^;)

すいません_(_^_)_ペタッ おみそれしました。
予告見て面白そうだなとは思ったんだけど、もう監督の名前見ただけで止めちゃったりして……。でも思い直して見に行ってヨカッタ
久々に知的好奇心をくすぐられるエンタテインメントを見せてもらったという気分になった。やればできる監督、エメリッヒである。

鑑賞後は芝居を観に劇場へ行きたくなること間違いなし。


演劇度:9点
陰謀術策度:8点


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コメント

エメリッヒ、誰だっけ?という感じでしたが、昨日新聞のTV欄で『2012』を見つけて、ああ、この監督だ、と思い出しました。確かに、エンタメ天変地異カタストロフものばっかり作ってますね。(だから名前が印象に残らない)しかし、どういう風の吹き回しでしょう。本当はこういう映画を作りたかった、だから今まで娯楽映画で資金集めてたのよ、とか。
そして、主演がリス・エヴァンスとな!これは見てみたいけど、どういう映画館(アートハウスかシネコンか)で上映されるのか、カテゴリー分けるのが難しそうで微妙ですね。だから、こちらではお蔵入りになってるのかも。

投稿: レイネ | 2013年1月18日 (金) 16時30分

そういえば十年がかりの企画--とか何かに書いてありましたな。しかし、それまでの監督作とあまりに毛色が違い過ぎてにわかには信じられませぬ。

こちらではミニシアター系での公開でしたが、予告を見た時に「ん?シェイクスピアの正体だって。面白そう」と思ったが、監督の名前で見て「ありえな~い!!」という感じでした。
といって、これまでのエメリッヒ映画のファンがみるとも思えず。

役者はみなさんいい味を出してましたよ(^^)

投稿: さわやか革命 | 2013年1月19日 (土) 23時08分

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