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2013年4月21日 (日)

「愛、アムール」:愛をしても一人

130421
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ
フランス・ドイツ・オーストリア2012年

今期の話題作の一つには違いないだろう。カンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得したのみならず、各国の映画祭でも受賞。そしてアカデミー賞の外国映画賞だけでなく主要な賞にノミネートされたのだから。
普通、カンヌで高く評価された作品はアカデミー賞では冷遇されるのだが、珍しくこれはそうではなかった。一説には投票するアカデミー会員が高齢化してて介護や老人問題というテーマが受けたからといわれる。
もっとも、授賞式の監督賞ノミネート読み上げの時はほとんど拍手も歓声も起こらなかったが……。

それ以外にも話題になる要素が--あのイヤミで強烈で冷淡な作風のハネケが、よりによって「愛」とはなんてこったい(!o!)ということだ。彼も年取って丸くなったってことかと考えちゃう。
そういう訳もあって、映画系のブログで取り上げている数も多いし賛否両論 元々、ハネケは嫌いだったがこの作品は評価する人、過去の作品は知らず初めて見て感動した人、前から嫌いでやっぱり好きになれなかった人など様々である。
映画館でも「これで、たくさん賞取ったんだよねえ」と首をひねってる人がいた。

元・音楽家の老夫婦がパリのアパートで悠々自適の生活を送っている。しかし、ある日突然妻が発作を起こして半身不随になる。自宅で夫が介助しつつ生活を再開するが、病気の再発にさらに痴呆の症状も進んでいく……と事態は悪化し夫を追い詰めていくのであった。

私にしては珍しく買ったパンフの評に、肝心なところはほとんどリアルタイムでは描かれず後から離れて暮らしている娘に話すという形を取っている--と書いてあったが、なるほどその通りである。
最初の発作で入院する件やその後あっただろうリハビリ場面、また手術の前後のなど外部と関わるドタバタとあわただしかったろう経過はカットされている。
物語は一貫してアパートの中で進んでいく。極めて閉塞的で息苦しい。もっともそれが「介護」の真実であろうが。

恐らく客観的な事実は冒頭の扉が壊される場面とラストだけだろう。それ以外は夫の主観で描かれていて、どこまでが本当に起こったことなのかは明確ではない。
それを考えると、扉に巨大な閂のような物が取り付けられているのは示唆的である。音楽会から帰宅した時には、彼は空き巣が外から鍵を壊そうとした跡があっても気にしなかったのに、だ。

むしろ外からやってきて二人をかき乱す存在が描かれる。娘(とその夫)、若いピアニストの弟子に代表される(あと付け加えれば管理人と看護婦)。
疎遠なのにたまに来てはうるさいことを言う娘は身内代表、突然出現して無遠慮な手紙をよこす弟子は外部代表というところか。
その二者に対し夫は意思の疎通を放棄し、できれば妻の姿を見せたくないと隠すのである。閉ざされた部屋の奥がどうなっているのか、ピアノの置かれた居間からは見えない。
「外」に対する夫の思いは、中盤で見る悪夢に端的に表わされているようだ。

彼が懸命に扉にテープを貼る姿や、玄関の頑丈な閂で思い出したのは、同じハネケの『セブンス コンチネント』である。
四人家族(恐らく夫婦が当時のハネケと同世代)がさしたる理由もなく一家心中する話で、その前に彼らは家を徹底的に破壊しつくす。そのパフォーマンスが過激で話題になった作品だ。
『愛、アムール』の夫の行為もベクトルの向きは違いさえすれ、同質のことをしているように思える。歳を取り、彼自身も脚が悪いので過激な行為はできないが。

今の家はかつての家ならず。家は破壊され/閉ざされ、死が横溢する。過去の愛したものは消滅し/重苦しく闇が淀み滞留する。

ただ、『セブンス コンチネント』では一家は死の間際にも安っぽいMTVのヒット曲を好んで眺めているが、こちらの夫婦は音楽家だけあってクラシックの名曲が流れるのが違う。
そしてもう一つ、ラストの明るい解放感。もはや暗い影は消え去り微塵もない。
この二点をもって「やれやれ(^^ゞハネケも優しくなったもんだのう」と思わざるを得なかった。
ただし、こんな話に「愛」とタイトルを付けるところはさすがにイヤミである。

エマニュエル・リヴァはさすがの熱演。特に身体表現が--。しかし、カンヌもアカデミー賞も候補にしただけで授賞しなかったということは、若い世代への期待を取ったということだろう。
もっとも、トランティニャンの引きの演技の方が大変だったかも。
弟子役に本物の若手二枚目ピアニストのアレクサンドル・タロー、それと娘婿を演じていたのはやはり本業がオペラ歌手のウィリアム・シメル(『トスカーナの贋作』に出てた)じゃないですか。ということで、配役も音楽度高し。


愛度:7点
イヤミ度:8点


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コメント

記事のタイトルが「こんなハネケはイヤだ」になってないということは、この映画結構お気に召したんですね?そこはかとないイヤミな香りがやっぱりハネケと。

ところで、ハネケが演出するオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』がブリュッセルで来月上演されるんですが、一般チケット発売日に旅行してたので、翌日夜アクセスしたらほとんど売り切で、「そのうちリターンが出てくるかも」なんて暢気に構えてたら正式にソールドアウトに!これもきっと『アムール』効果(各地の映画祭で賞とったおかげ)?今シーズン一番期待してた演目なので、とんびに何かをさらわれた感じで割り切れない思いが。。。

投稿: レイネ | 2013年4月22日 (月) 03時58分

そこはかとないイヤミどころか、かなりのイヤミだと後で『ヒッチコック』を見たら思い直しました(~_~;)
オペラの演出はどんな感じでやるんですかね。やはり現代に置き換えるんでしょうか。

ソールドアウトと言えば、サヴァールのソロ公演のチケットが瞬殺で完売してしまいました(号泣)。
先行発売を見逃していたのも失敗でした。不覚であります。

投稿: さわやか革命 | 2013年4月24日 (水) 06時56分

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