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2013年6月19日 (水)

「コズモポリス」:リムジンは進むよどこまでも

130619
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ロバート・パティンソン
フランス・カナダ2012年

『イースタン・プロミス』の続編が頓挫した代わりに『危険なメソッド』を作ったというクローネンバーグの新作は、近年は鳴りを潜めていた「クロ節」が炸裂の一編である。
レオス・カラックスのやはり同時期に公開された新作『ホーリー・モーターズ』と、設定が似ているとかいないとかで話題になった。

金融で若くして巨額の富を築きあげた男がリムジンに乗ってニューヨークの街を移動する。街は暴動が起きかけていて、交通は渋滞している。
男はどうしてもその日に移動しなければならないという理由はない。さらに危ない取引に手を出して富を一瞬にして放棄してしまう。

のろのろと進む大型のリムジンには様々な人が訪れる。そして、その中ではありとあらゆることができる。外に出なければならないというさしたる理由もない。時々、暴動の参加者が窓をぶっ叩いたりするが、気にしないのである。

一貫してリムジンで繰り返される行為や会話はほとんど不条理に近い。何やらグチャグチャし、ヨレヨレフラフラして小汚く訳がわからず、まともな所は一つもないけど理屈っぽい。その中心に鎮座する主人公をロバート・パティンソンが空虚に演じている。
終盤では不条理から半幻想に近づく。美しいとはお世辞にもいえない幻想だが。

そこに登場するポール・ジアマッティはコソコソとして薄汚くげっ歯類を思わせる。見ているとイライラしてしまう。ここまでイライラさせるとは--さすが名優といわれるだけはある。

久し振りのクロ節はさすがにヘヴィで、見終わった時はぐったりしてしまった。隣の席に座ってた若者は、後半に至ると退屈した小学生のように常にバタバタと身体を動かしていた。
2時間弱は長過ぎ、せめて90分にしてほしかった。

そんな型破りなのに、「巨額の富を得た人間は虚無にとらわれ不幸である」という「常識」から逃れていないのはどうしたことだろうか。私のようなひねくれ者だと、巨万の財産を築きながら素晴らしい家庭を得て幸せな人生を得ている人物が登場したっていいじゃないかと思いたくなる。
もっとも、実際にそんなのがいたら石を投げたくなるけどな(-_-メ)

原作はドン・デリーロの小説だが、このまま芝居にしてもうまく出来そう。リムジンを舞台にデンと据えたまま周囲の人間と背景が動いて行くという趣向にしたらいいかも。


不条理度:9点
清潔度:5点


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コメント

この映画、なぜかこちらでは未公開というか無視されてる。貴レビューを拝読すると、《危険なメソッド》よりは、ずっと面白そうなんですが。
《ホーリー・モーターズ》はご覧になりまして?

>巨万の財産を築きながら素晴らしい家庭を得て幸せな人生を得ている人物

そういう人物というと、アート・コレクターとしても有名なチャールズ・サーチを思い出すのですが、この数日、セレブTVコックである愛妻ナイジェラ・ローソンへのロンドンのレストランでのDV事件でゴシップ紙を賑わせてます。。。

投稿: レイネ | 2013年6月20日 (木) 01時14分

『危険なメソッド』より面白いかどうかは微妙なところです(^_^;) かなり見る人を選ぶ感じですので。
ロバート・パティンソンのファンで行った人は目がテンになってしまったかも。
『ホーリー・モーターズ』は見てません。映画ファンの感想を見ると、『ホーリー~』の方が評価は高いようです。
ただ、どちらの作品も見に行った人は少ないようで……。

|DV事件でゴシップ紙を賑わせてます

やはり富は多過ぎても無さ過ぎてもダメなのでしょうか。まあ、多過ぎるほど持ったことはないから分かりませんわな。

投稿: さわやか革命 | 2013年6月20日 (木) 07時07分

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