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2013年8月13日 (火)

「欲望のバージニア」:密造酒三兄弟

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監督:ジョン・ヒルコート
出演:シャイア・ラブーフ
米国2012年

完全スルーしていた作品。だからチラシも貰ってなかった。それが俄然見る気になったのは「ミュージック・マガジン」誌に紹介記事が乗っていたからだ。なぜにMM誌が取り上げたかというと、ミュージシャンのニック・ケイヴが音楽だけでなく脚本も担当しているのである。
監督は『ザ・ロード』と同じ人でオーストラリア出身。同郷のニック・ケイヴとはこれまで幾つかの作品で組んでいるらしい。

舞台は1930年、禁酒法の時代である。題名からするとバージニア州を股にかけた犯罪ものという感じだが、そんな大きな話ではない。ほとんど、とある郡限定で展開している。
ド田舎なんで自家製の酒はほとんど農産物扱い。ご近所のおばちゃんに売ったり、保安官でさえ金を払って買っていく。ノンビリしたもんで禁酒法があるといっても気にしないのだ。
しかし、連邦の取締官がギャングに射殺され、その後任で来た男が強硬路線を取って地元の密造酒製造者たちに賄賂を請求し圧力をかける。次々と屈服するなか、ボンデュラント三兄弟だけは抵抗するのだった……。

この兄弟はご当地では有名な実在の伝説的人物だそうな。三人を演じているのがジェイソン・クラーク、トム・ハーディ、シャイア・ラブーフで、末っ子の定番としてラブーフ扮する末弟はやや情けないヤツ 彼の成長物語も兼ねている。ハーディは兄よりはるかに貫禄があるが次男という設定らしい。何やら眼に狂気が張り付いている長男役のJ・クラークは最近どこかで見たと思ったら、『華麗なるギャツビー』の寝取られ亭主だったのね。

その三人を遥か超えて怪演の極みを見せ付けるのは、取締官役のガイ・ピアースである。役柄の設定はモロ変態で、髪型はさらに変態的である\(◎o◎)/! ギャー、なんとかしてくれいと叫びたくなるレベル。
そういや『ボードウォーク・エンパイア』の密造酒取締官も変態的であったな。当時地方に回される取締官てみんなそんな感じだったのか(^^?)なんて思っちゃう。

こうなると当然、次に期待されるのはキレイなネーチャンであるがそちらも抜かりはない 過去にワケありで都会から流れてきた女、ジェシカ・チャステインがエエ味出してます。ファム・ファタールというより、グッドバッドガールっぽい。もう一人、牧師の娘がミア・ワシコウスカ。白磁のすんなりした花瓶みたいに清楚であるよ。

ラストは怒涛の銃撃戦へとなだれ込む。ただしかなり野卑な撃ち合いで、犯罪ものというより西部劇のようだ。とはいえ、主人公たちの撃たれ具合は香港ノワール並みで、いくらなんでもこれじゃ死人が出るだろうというほどだ。

と、ここまで書いてくると『L.A. ギャング ストーリー』とかなり似ているのに気付く。女性陣は対照的な二人だし、悪役のキレ具合、さらに名優の特出(こちらでは、ゲイリー・オールドマン)があるけど活躍度低い。そして、ラストは日常へと回帰する点である。

だが、人物の描写や久々に興奮させてもらった野卑な銃撃戦により、こちらの方を大プッシュしたい。ただ、邦題はね……他に付けようがなかったんですか(!o!)

原題のLAWLESSを訳せば「無法」だが、禁酒法があってこその混乱と騒動、そして廃止されてからの平穏さを見ると、その意味は逆転するのかもしれない。
それと、連邦のやり口には屈しねえ(ーー゛)おれたちゃ自由を守るぜ--というようなアメリカ流自治精神も感じた。
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ニック・ケイヴのサントラはブルーグラスやフォークのベテラン歌手に、もっと後の時代のブルースやパンク/ニューウェーブ系の曲を完全カントリーブルースにアレンジして歌わせている。教会のアカペラの合唱(あれがシェイプノートというのか?)がすごい迫力で驚いたけど、サントラ盤には入ってなくて残念よ。

ところで丸の内東映てウン年ぶりぐらいに行ったのだが、予告がご家族向けシネコンと全く違うのが感動的(?)であった。


無法度:9点
銃撃戦:8点


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コメント

そそりますねえ、、俄然、見たくなりました。 マリオンでかからないような映画にも丁寧な視線を送るから、いつも、さわやか革命さんの批評は見逃せません。

投稿: やしましゅうじ | 2013年8月14日 (水) 11時00分

トム・ハーディが出てるので期待してたんですが、昨秋は忙しくて劇場公開見逃し、年末に飛行機の中で見ました。でも、飛行機の小さな画面が暗すぎたのとイアフォンの調子が悪くて、しっかり見たとは言えません。好みの俳優がたくさん出ているのに、残念ながらイマイチ入り込めませんでした。

ジェシカさんとミアちゃんのすがすがしさは、まさに掃き溜めに鶴で、野卑でえげつないお話もこの二人のおかげでなんとか乗り切れました。
最近、ハーディとオールドマンって、よく共演してますね。ハーディは『裏切りのサーカス』『ダークナイト・ライジング』とこの作品では全く異なる役柄なのに、オールドマンの役柄はほとんど固定化してる。。。昔の『ナンシーとシッド』みたいな役はもう来ないのかしら。

しかし邦題は、またしてもセンスないですねえ。

投稿: レイネ | 2013年8月15日 (木) 05時22分

 >やしましゅうじさん

オススメです! でも宣伝もほとんどなかったし、題名だけでは内容不明なので、見た人が少ないのは仕方ないかも。

 >レイネさん

西部劇度やら無意味な暴力度が高いので見る者を選ぶ作品かも知れません。けど、観客は男優目当てと思われる女性客が結構いましたね。

G・オールドマンは一時期、アクション映画の悪役専門みたいになってたのを、「バットマン・ビギンズ」で方向転換できたんで、しばらくこの路線で行くのは仕方ないのかもしれませんね。
「シド・アンド・ナンシー」(邦題)みたいな役は--年齢的に難しいんでは(^O^;

投稿: さわやか革命 | 2013年8月17日 (土) 22時53分

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私の中では2013年公開作品で五本の指に入る傑作。何がどう良かったかを上手く伝える事がレビューの一つの在り方だから、それをきちんと自分の中で咀嚼できずここに至るまで書けなかった。どうしてこんなにいいと思ったのか、今でも上手く伝える事ができないかもしれない。 何故この作品にこんなに心惹かれたのか…? それは、実話を元にした物語が、まるでフィクションのように壮大なロマンのハーモニーを奏でたから。 物語の登場人物が、全員その役柄を研究し尽くし、尚且つ自身のオリジナリティを加えて細部までも役に... [続きを読む]

受信: 2014年1月15日 (水) 16時39分

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