「楽園からの旅人」:さよならイタリアさよならニッポン
監督:エルマンノ・オルミ
出演:マイケル・ロンズデール
イタリア2011年
これもいわゆる「難民映画」の範疇に入るのだろうか。たしかに「難民」は登場するが、少し様相が違うようだ。一言で言えば、棺桶に半分足を突っ込んで衰退するヨーロッパに別れを告げるような映画である。
全編、静謐な寓話といったトーンで貫かれ、舞台が教会内で固定されて外に出ることはない。演劇的でもある。その点ではリアリティある作品ではない。
また独特の深く暗い色彩は絵画を思わせる。「目」をかたどった教会の天井のステンドグラス、音の出ないTVなど登場する様々なモノはいずれも象徴的な意味を持っているようだ。
イタリアのとある街の教会が、信者数の減少によって取り壊されることになった。老司祭は頑なに拒否するが作業は進む。
十字架も祭壇も取り払われた堂内に忍び込んできた一団がいる。アフリカ系の不法移民たちだった……。
信者が来なくなった教会の空隙を埋めるのが異教徒だというのは極めて皮肉である。
さらにその中の若い娘が出産し赤ん坊を抱いている姿に、イエスの誕生を重ね見た司祭は衝撃を受け、よろよろと形ばかり残った祭壇に祈りを捧げる。
彼らの中にはテロリストや裏切り者、娼婦もいる。しかし、ほとんどが若く輝やかしく見える。
対照的にイタリア人たちは司祭を含めみな年老いていて、過去を回想しては現在を嘆くことしか残されていない。(彼の唯一の話相手の医者がユダヤ人であるというのもまた皮肉な状況だろう)
もはや彼らの前に新たな世界は存在しないかのようだ。
数日経つと移民たちはフランスに旅立ってしまう。中には、今までイタリアで働いていたが見切りをつけて自国へ帰るという者もいる。ここはもう通過点に過ぎないのだ。留まる者はなく、司祭を顧みる者は誰もいない。
監督はアフリカ系の人々に新たな神話の創造と若々しい活力の担い手として見ている。もはやイタリアは取り残される年老いた地域となっている。
かつて三国協定を組んだ日独伊は、現在少子化に悩んでいるという点でも共通していると聞いたことがある。老いたイタリアの描写は日本にも重なる部分が多々あり、私は見ていて陰々滅滅(ーー;)となってしまった。
一体、少子化で将来スポーツをやる子どもも少なくなるというのに、オリンピックなどやってどうしようというのか。私には理解しがたいことである。
名匠と呼ばれるエルマンノ・オルミ監督の作品、今まで見たことがない……と思ってたら、『聖なる酔っぱらいの伝説』を見ていた。ルトガー・ハウアーが出演しているという単純な理由からだ(^^ゞ
この作品でも彼は教会の管理人役で出ている。彼もまた取り残される側の人間である。
ヨーロッパ度:3点
アフリカ度:7点
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