「バックコーラスの歌姫たち」:主役を超える裏方もいるんだよ
バックコーラスというものの存在を意識したのは、確か高校生の頃に兄が買ってきたバーブラ・ストライザンドのアルバムを聞いた時である。ライヴ盤だったと記憶しているが、黒人女性コーラスとの掛け合いが非常に生き生きとして印象に残った。中でも「ストーニー・エンド」(原曲はローラ・ニーロ?)のコーラスはいまだに脳内によみがえってくる。
バーブラの歌唱はロックともR&Bとも無縁なものだが、それだけに異質なスタイル同士の掛け合いが面白かった。
さて、そんな裏方のバックコーラスを担当してきた黒人女性歌手(一部、男性も)を取り上げたのが、このドキュメンタリーである。
そもそもコーラスとソロ歌手とのコール&レスポンスは、教会の黒人霊歌が発祥だという。そして代表的なバックコーラスの歌手たちにインタヴューする。彼女たちは優秀で実力を持ち、スタジオでどんな要求にも即時に応えてきた。
懐かしい映像も数々登場する。古くはストーンズ「ギミー・シェルター」、D・ボウイ「ヤング・アメリカンズ」、近年はM・ジャクソンなど。
そして期せずしてそれらは「裏ポピュラー音楽史」にもなっているという次第だ。
「スイート・ホーム・アラバマ」のコーラスの依頼があった話も出てくる。あれは「トンデモ曲」扱いなんですな。でも、まあ内容はともかくコーラスが印象的な曲には間違いない。ライヴでは白人女性が担当してたが(^O^;
かつてはスレンダーで美人、スターと浮名を流したおねーさま方も、今はかなり貫禄がついきて時代の変遷を感じさせる。
横から彼女たちを眺めてきてインタビューに応じるのは、スプリングスティーン、スティング、S・ワンダーほか。頻繁に出て来て辛辣なことをチクチク言うのはパティ・オースティンだ。ベット・ミドラーは一度しか登場しなかったが、彼女も下積みの長かった人だからもっと話を聞きたかった。
原題の「スターダムから20フィート」はスプリングスティーンの言葉から取られている。コーラスからステージの真ん中のスター歌手までの距離は約6メートル。ある者は自分の名前でレコードを出してもらえず、ある者はアルバムを出してヒットしたもののその後鳴かず飛ばず……。
一体彼女たちに欠けていたものは何か? 環境か、押しの強さか、運か--そしてまたコーラスを歌い続ける。人生の変転などというものをしみじみ考えさせるドキュメンタリーである。
最近はコーラスを使う音楽自体減ってきて、仕事も少なくなってきたという。そういや、そうだ(゜o゜)
ティナ・ターナーのバックであるアイケッツについては作中では「動くフィギュア」などと散々な評価だったが、映像で見ると今でも実にエロカッコイイ アイク・ターナーは山師でどうしようもない暴力男だとしても、この手の審美眼は確かだったようだ。
中に登場してくる歌に字幕がちゃんと付いていたのはヨカッタ(*^^)v
今年度のアカデミー賞ドキュメンタリー長編部門に晴れてノミネート でも鉄壁作品があるから無理でしょうな……。
音楽愛度:10点
人生悲哀度:8点
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