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2014年2月25日 (火)

「皇帝と公爵」:華麗なる略奪暴行殺戮

140225
監督:バレリア・サルミエント
出演:ヌヌ・ロペス
フランス・ポルトガル2012年

チラシや予告を見た時はこう思った。
ポルトガルを舞台にジョン・マルコヴィッチ扮する公爵とマチュー・アマルリックのナポレオンが戦場で対峙し、手に汗握る戦略上の駆け引きを行う華麗なる歴史絵巻ものである。カトリーヌ・ドヌーヴほか豪華助演陣多数

だが見始めて数分経つとそれは全くの間違いであることが分かる。冒頭、山の斜面で銃撃された兵士たち(フランス軍らしい)がバタバタと倒れると、どこからかワラワラと湧いてきた住民たちが死体から金品や靴を奪い取るのであった……。

とまあ、こんな調子である。M・アマルリックはナポレオンではなく、フランス軍の将校の役でそれほど出番があるわけではない。一方、ポルトガルと連合を結ぶ英国軍の将軍たるウェリントンは何をしているかというと、望遠鏡でたまに戦場を眺めるか、さもなくば画家(ヴァンサン・ペレーズ)に自画像を描かせてはねちねちとイチャモンを付けているぐらいなのである。
さらに豪華助演陣のドヌーヴ、イザベル・ユペール、ミシェル・ピッコリに至っては、出番はほんの一瞬--つまり予告に登場していた時間とほとんど変わらず、あれが全てだったのだあ~\(◎o◎)/!

これが詐欺的行為と言わずしてなんであろうか。一体こんなことを平然と行なっていいものか 私は全映画ファンに激しく問いたい(*`ε´*)ノ☆
……と言いたいところではあるが、ではこの映画が益体もないつまらぬものかというとそういうわけではない。

基本的に群像劇である。それもやたらに人数が多い。あまりに多いので見ているうちに忘れちゃって「この人誰?」状態になるほどだ。いや、どう思い返してみてもいつ出て来たか分からない人物もいる。
さらに、編集がぶっ切れているような部分もあって、「これってもしかして大河ドラマの総集編(^^?)」と疑いたくなるのであった。

一応、中心として描かれているのはポルトガル軍の軍曹と、怪我をして病院に置き去りにされた若い中尉だろうか。
ストーリーの多くは兵士と女たち(娼婦を含む)がイチャイチャしている場面か、暴行略奪殺戮の場面にさかれている。

だが、見ていてもっとも気が滅入ってくるのは難民と化した市民たちの姿である。
フランス軍が侵攻してくるという都市から、避難勧告が出されて住民は一斉に英国軍が築かせた要塞(というか万里の長城みたいなもん)へと移動を始める。
ある者は馬車、またある者は手押し車、さらには自身で背負って家財道具一切合財を、貧しい者も富める者も子供から老人まで道で列をなして運んでいく。中には書斎の本棚丸ごと運んでいる者も(どうやって家から出したんだ?)。
また、周囲の説得も拒否しあえて一人屋敷に残る老婦人もいる。

これまで歴史劇で戦争ものは幾つか見たが、このように非戦闘員が、住む土地を追われ避難民と化した様相を描いたのは初めて見た気がする。その姿に思わず知らず「難民映画」という言葉が浮かぶ。本来ならば現代の紛争地域から欧米に逃れてくる難民を描いた映画を指すものだろうが、これもまた確かに「難民」の映画に違いない。。

そういう作品にふさわしく大勢の人物が行きかい、なにやらグズグズと終結していくのであった。

さて、この映画の感想で二、三見かけたのが「女はたくましい」というものである。なるほど、娼婦がうまいこと兵士をまるめこんで立派な正妻に成り上がったり、避難の旅程で出会う将校たちに次々と色目を使うイギリス人の令嬢など、戦争をものともせず--というか利用してちゃっかり生き抜く女たちが登場する。しかし、それは半数だけである。残りの半分は違う。

戦死した夫にあくまで操を立てる兵士の妻もいるし、また中盤に登場する仏国兵を殺しまくる女の境遇は悲惨の一言だ。
彼女はフランス軍を避けて赤ん坊と共に納屋に隠れていたが発見されてしまい、胸に抱いていた赤ん坊を壁に叩きつけられて殺され、数人の兵士にレイプされる。その始終を幼い娘が物陰から見ている。絶望した女は死のうと思って海辺へ行くがそこでも英国兵に遭遇してまたもレイプされてしまう……。
かくして彼女は復讐に燃え殺戮を行うようになったのである。まあ、これも「たまくしい」と言おうと思えば言えるかも知れないがね(-"-)

それよりも、辺鄙な道で強盗に襲われた避難民の一家の死体が転がっているのを発見。中に若い女もいるのを見て欲情し、往来のド真ん中で死体とイタそうとズボンを脱ぎ始める男の方がよっぽど「たくましい」と思うのだが、いかがであろうか?(注-皮肉である、念為)

なお、この作品はポルトガルの名監督ラウル・ルイスの原案で、彼が亡くなったので奥さんが完成させたとのことだ。上に述べた通り、総集編ぽいのと暗い内容なので見ていて楽しいとは言えない。
それにしても、こんな内容でよくフランス側が製作に参加して役者も出演したものである。日本だったら考えられないことだ。


戦乱破壊度:8点
予告詐欺度:9点

【追記】
途中、フランスとイギリス、敵味方逆に書いちまいました(~ ~ゞ 反省。
本文で役者について書き忘れたが、若い中尉役のカルロト・コッタはスッキリさわやか優男系、軍曹のヌヌ・ロペスは無骨で頼りがいあり、ご婦人方に推奨である。
男性向けにも、娼婦役のエロっぽいマリサ・パレデスもいれば、貞淑な人妻ジェマイマ・ウェストと、多方面に対応しております

【さらに追記】
英国軍の一介の伍長が自分の妻をポルトガルの戦場に連れてきていたのに驚いた。わざわざ海を越えてである。これってホントなのかい(?_?)と思ったが、こちらの記事をたまたま見つけた。
「19世紀以前の近現代の戦争では、軍人の飲食や炊事、洗濯などの身の回りの世話をおこなうためのキャンプ・フォロワー――現在で言う後方支援・兵站がセットになって、軍と一緒に行動していました」
「ときには家族がキャンプ・フォロワー役をつとめ、軍の移動の際には兵士が家族連れで移動することもあったのです」
な、なるほど……納得である。

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