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2014年3月30日 (日)

「スノーピアサー」:人生はグリーン車に乗って

140330
監督:ポン・ジュノ
出演:クリス・エヴァンス
韓国・米国・フランス2013年

えっ、あのポン・ジュノがハリウッド製巨大娯楽作品に 似合わねえ~(>_<)
そして、私の脳内には自国にいた時は小品ながら優れた映画を作っていたのに、ハリウッドでエンタメ作品を任されてからはパッとしない、あの監督やらこの監督やらの名前が浮かぶのであった……。

だが、実際見てみたらこりゃハリウッド活劇なんかじゃなかった。やっぱり「変」な映画であった。さすがポン・ジュノであ~る
そもそも制作費は韓国側の資本が大半で、そういう点からもハリウッド製ではないのだった。

地球温暖化を抑えるために大気中に冷却剤を撒いたはいいが、まき過ぎて失敗。逆に寒冷化が起こって人類滅亡。唯一の例外は、ちょうどその時走っていた永久機関による夢の超特急(←死語か)で、多数の人を乗せて地球一周をしていた。
物語の冒頭はその17年後で、後ろの車両に行くほど乗客が貧乏で環境は劣悪という階層社会になっている。

原作はフランス産のコミックスということで、かなり奇抜な設定で寓話的だ。SF風ではあるけど、科学的な合理性・整合性は皆無であるので、そういう部分に突っ込んでも無意味だろう。

後半では列車の前の方の様子が判明するが、どうしてこんな状況を維持できるのかはやはり謎である--というか、ありえない(!o!) 突然うまそうな握り寿司(しかも握っているのは黒人の職人である)が出てくるのにもビックリ。

そもそもは寒冷化が起こった直後に一番安い切符の乗客の荷物を取り上げ、窓もない車両に押し込めたということらしいが、その割には肉体労働させるわけでもなく、カイコ棚のような薄汚れた寝台が並んでいる様子は収容所を想起させる。
武装した警備兵がいて、子どもやヴァイオリンを弾ける者、などと選別して連れて行ってはその後の消息は不明、というところも何やらそれっぽい。

殺戮場面やら残酷場面多数あり、全くもってご家族向け健全娯楽作品ではない。
また主人公は終始ヒーローらしくなく、とある人物を見捨てていく展開には驚いた。それに重要かと思われた人物たちがどんどん消えてしまうのも、定型パターンを外している。終盤の主人公の独白がやや冗長かと思えたが、かといってそれを映像で見せる訳にもいかず……{{(>_<)}}

ジョン・ハートやらエド・ハリス、テイルダ・スウィントン(「超」がつく怪演)といったベテラン名優や、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベルなど注目俳優を助演に使っているが、それも微妙に「外して」いる。
ソン・ガンホ(絶対に英語を喋らないのに笑った)はセキュリティシステムを設計した人物ということになっているが、どう見ても「プロのコソ泥」にしか思えないのは私だけだろうか。

宣伝チラシには「いまだかつてない近未来SFエンターテインメント」とあるが、これは正しくは「近未来SFエンターテインメントではない」のだった。では何かというと、やはり「変」としか言いようがない。

さて、寓話としての「列車」は一体何なのだろうか。解釈は見た観客の数だけあるだろう。神と人間の関係か、それとも文字通り現代の格差社会の象徴か。仮想現実を引き合いに出す人もいる。

ここでは仮に「原子力エネルギー」の寓意としてみよう。というのも、車窓外の風景として横倒しになった巨大な船が見えたのだ。寒冷化で船が陸地で横倒しになるとは思えず、3.11の災害の映像を想起したからである。
例え外界が自然災害で破滅してもとどまることなく運転し続け、劣悪な環境に封じ込めた人々と軽薄な消費行動にふける人々を内包する状況は、まさに原発のあり方と重なる。しかも、その内実は部品がなく、トラブル続きでメンテナンスが大変--となったら、そのまんまではないですか(!o!)

とすれば、あのラストの意味は……(>y<;) これまたいくらでも解釈できそうである。

やっぱりポン・ジュノ変なヤツ~ッというのを結論としておきたい。


健全度:2点
鉄男度:6点


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