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2014年5月 5日 (月)

バッハ「マタイ受難曲」:涙目でダイブ

140505
演奏:鈴木雅昭&バッハ・コレギウム・ジャパン
会場:彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
2014年4月19日

恒例のBCJの受難曲、オペラシティの公演を選べばそれこそ聖金曜日になったのだが、次の日の埼玉公演にした。会場が古楽向きなのもあるがゲルト・テュルクの最後の舞台になるかもしれないからだ。(実際には翌日に名古屋公演があった)

こちらでは豪気なことに、歌詞と短いけどI教授の解説付き冊子をタダで配っていた。もっとも、いつものパンフも売っていたので買っちゃったのだが……。
パンフの方は歌詞に詳しい用語解説や図版が付いててビックリ。聞きながらこんなに読んでる余裕はとてもないなーと思ったが、演奏中にパンフやチラシを熟読している人もいるからね(^o^;)

全体的にはテュルク氏の最終ツァーにふさわしいものだった。
冒頭の合唱がゆっくりと始まりやがて徐々に熱をはらんでくるあたり、いつもながら年季を感じさせ見事である。
さらに後半60番のアリアで「どこに?」と合唱が入る部分なんか、あまりに密やかなんで、もはや囁きというかため息に近いものだった。もう変幻自在である。

個別では、一番印象に残ったのは49番のソプラノ・アリアだろうか。今回のソリストはハンナ・モリソン(初登場?)で、なんとオメデタだったらしい。妊婦をこんなハードスケジュールに付き合わせちゃいかんなー とはいえ、その声は全く傷一つない白い滑らかな陶器を思わせる美しさだった。
この曲の器楽編成が通奏低音なしでトラヴェルソとオーボエ二本のみ。これって、珍しいのではないか? 同時期の他の作曲家もこんな編成でアリアを書いているのだろうか。聞こえてくるイメージも極めて「変」である。
しかし、変ではあるがやはり美しい。そして歌も楽器も休止する瞬間の静寂が長く、耳にしみ入るようだった。その時、本当に会場は奇跡的にしわぶき一つなく、静かだったのだ。(後の方ではさすがに咳払いやチラシ落としがあったが)

それから65番のバス・アリアはこれまでもそうだったが、この時あらためて「いや~、名曲ですねえ」(水野晴郎風)と感じた。サッパリとした解放感にあふれ、晴れ渡った青空を飛んでいくような曲だ。まさに最後のシメ近くにふさわしいアリアである。
さらにP・コーイの歌はスルメの如く噛みしめると何度でもおいしい汁がしみ出してくるような、ベテランならではのしみじみとした味があった。
今までコーイ氏、何度も聞いてきたはずなのに……と思ったが、よくよく思い返してみると、彼はBCJの受難曲にはあまり出演してなかったようだ。だから余計に新鮮に感じたのかも知れない。

他には35番のアリアでテノール櫻田亮&チェロ武澤秀平コンビ、それと8番でソプラノアリアを歌った松井亜希が感動を伝えてくれた。

テュルク氏はエヴァンゲリストのパートだけでなく18・19番のあたりのレチでも表現が非常に激しく、それにつられて?かどうかは不明だが鈴木雅明の指揮まで激しかった。
だが一転して、ペテロの否認の場面は力なく弱々しい。先日の川崎ヨハネの同場面では地を這うようだったのが、ここではもはや倒れて身動きもできないようだ。それだけに続くクリント・ファン・デア・リンデのアルト・アリアが余計に盛り上がるのであった。

そして長い受難曲のラストのコラールを彼が座ったまま一緒に歌うのを見て、こちらも涙目になってしまった
ありがとう、テュルク氏、ありがとう(ToT)/~~~
カーテンコールに登場した彼は、動作や佇まいが心なしか老けたように見えた。でも、きっとこちらの気のせいだろう。

この感慨はBCJとの長年の共演の日々を思ってである。数々のカンタータでの歌声も忘れ難い。
終了後ネットに「世界最高のエヴァンゲリストが引退」とか「彼のいないBCJは今後受難曲をどうするのだろう」などという感想を見かけたが、世にゴマンとテノール歌手はいるし、優れたエヴァンゲリスト役も大勢いるだろう。それにBCJの受難曲では結構いろんな歌手がエヴァンゲリストを歌っている。彼が毎回やっていたわけではない。いささか大げさすぎである。

そんな中で唯一の汚点が、最後のフライング拍手である。マサアキ氏が腕を降ろしてないのに一人が即時にフライング、それにつられて十数人が拍手。しかし、その他の聴衆はじっとガマンの客であった。彼が腕を降ろしてからようやく万雷の拍手となった。

大体にしてですよ(-_-メ) フライング拍手するぐらいならスタンディング・オベーションせんかい
いや、それどころか、指揮が終わってこちらを振り向いた途端にワッとステージ前に聴衆が押し寄せ、中には上に駆け上がってテュルク氏やマサアキ氏に抱きついた揚句、客席に向かってダイブするぐらいじゃないと引き合わん。
私もランたんハナたんが再出演する時は、興奮してステージ際でハンカチを振り、そのまま失神して倒れたいと思います(^^)/

ともかく、BCJも一区切りということですかね。


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コメント

おお、なんとハナ・モリソンが『マタイ』でBCJデビューと!清らかでいて芯に秘めた強さも感じられる彼女の歌声、2,3年前に一度だけ聴いただけなんですが、またぜひ聴くチャンスがあればと願ってます。お若そうなのに妊娠中なんですね。。。。

BCJが一区切りついたところで、2021/22年の創立100周年に向けてオランダバッハ協会(NBV)が、All of Bachプロジェクトを先日より開始しましたね!

投稿: レイネ | 2014年5月 6日 (火) 19時29分

H・モリソンはかなりお腹が大きくて、安定期に入ってるんだろうけど、合唱の時なんか立ちっぱなしで大丈夫かしらん、なんて思ってしまいました。しかも、公演が三連チャンだったもんで(~_~;)
いずれまたカンタータ公演でも出てくれればと思います。

オランダ・バッハ協会のプロジェクトって、全曲演奏みたいなものですか? いずれにしろ楽しみですね。

投稿: さわやか革命 | 2014年5月 7日 (水) 22時25分

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