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2014年5月31日 (土)

「それでも夜は明ける」:夜明け前が一番暗く、夜が明けてもまだ暗い

140531
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォー
米国2013年

今年のオスカー争奪戦では『大統領の執事の涙』から「黒人枠」をドタン場奪取し、直前の下馬評は高くて見事作品賞ほかをゲット。しかし、日本で公開されると意外にも賛否両論だった。

私も見てみて役者の演技や演出に目を奪われるところが多々あったが、一方で今、米国で暮らすブラザー&シスターたちは、見たらあまりいい気分はしないだろうなとも思った。
何せ、北部で「名誉白人」として不足なく暮らす主人公(付き合いがあるのは白人ばかりのようだ)が、誘拐されて奴隷商人の手で南部に売られ、結局白人の手によって(抱きついて)救い出されるというのである。いくら実話とはいえ、現在の黒人の立場からすると情けない話である。
その描写には納得する部分と、そうでない部分の両方が存在した。

奴隷不足のためわざわざ北部まで来て自由な黒人を誘拐するというのは初めて知って驚いた。奴隷制とは「経済」の話でもあり、需要に供給が追い付かなければどこからか補充するしかない。
農園主の前で人間性も失い、ただ黙々と働く奴隷たちの姿は白人の横暴さを訴えると同時に、あまりに彼らの無力さを強調しているようでもある(例えば強制収容所のユダヤ人のように)。
見てて一番イタい場面は、B・カンバーバッチ扮する「良心的な」農場主が奴隷たちを集めて聖書を読み聞かせする件りであった。不正の一端を担いながら正義を説く……あイタタタタ(> <) 聖書の語句が全てをあからさまにする。
しかし、このようなことは現在もあることだ。自分も気をつけなくては

首をつられた主人公を長回しで延々と撮る場面(しかもその向こうを他の奴隷たちが何事もないように通っていく)や、終盤の主人公の顏の表情だけを写して焦燥と苦悩を表わす場面など、圧倒的なものを感じさせる。
しかし、一方で原題に「12年間」というわりには彼の外見がほとんど変化しないという「手抜き」(?)はどうよとか、プロデューサーでもあるブラピの役柄が良すぎるのはなんだかなあとか、他の仲間を置き去りにして自分だけ逃げだしたような「後ろめたさ」を強調するのはあんまりじゃないの、などと色々疑問に思ってしまった。

ハンス・ジマー担当の音楽はノイズっぽい重低音がドヨ~ンと効いていて、陰鬱な話をますます重たくしてくれた。
また、主人公がヴァイオリン(というかフィドル?)奏者とあって、音楽が演奏される場面も色々と面白い。

最初に、主人公が誘拐前に演奏するのは若い男女が踊るホール。踊る人々も彼も楽しそうである。
次に登場するのは、M・ファスベンダーの横暴な農場主が深夜に奴隷たちを無理やりたたき起こして踊らせる。一同、亡霊のようで悲惨の一言だ。
そして、他の農場に「貸出」されて演奏するのは、仮面をつけた怪しげな仮面舞踏会だ。退廃的な腐臭を感じさせる。

彼が葬式で黒人霊歌を歌う場面も評判になったが、それよりも最も衝撃的だったのは先住民と出会うところだ。
森で作業して帰途についていると、先住民の集団と遭遇する。そこでひと時、一緒に歌ったり踊ったりするが、そこで先住民が弾いているのが小さい丸太の枝に糸を張って、手製の小さな弓で弾く弦楽器(?_?)なのである。なんだかチリチリとか細い音がしていた。
こんなものが存在したのか(!o!)と私の目は驚愕でテン(・o・)になりながらも凝視したが、一瞬で消えてしまったのでよく見られなかった。残念であ~る。

M・ファスベンダーと主役のキウェテル・イジョフォーはアカデミー賞の下馬評に上がっていたが、獲得はできなかった。男優部門に限っては、風は『ダラス・バイヤーズクラブ』に向いていたようだ。


ところでラストの字幕で、実際の主人公当人はその後南部の奴隷を北部へ逃す「地下鉄道」の活動に関わってたとあった。子どもの頃に新日本出版社の児童文学シリーズで『自由への地下鉄道』という物語を何度も繰り返し読んだ。この人も加わっていたのか。
私は小学校の図書館で読んだのだが、今のご時勢だったら「他人の所有物を勝手に逃す話なんてとんでもない」などとやり玉に挙げられて、撤去を求められるかな(^◇^)


奴隷度:9点
十二年間度:3点


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