「トークバック 沈黙を破る女たち」:沈黙は美徳とは限らず
米国で女性のHIV感染者と元受刑者が、自らの人生を芝居として描くプロジェクトのドキュメンタリーである。
指導者の女性は元々は女性刑務所でパフォーマンスのセッションを行なっていた人物。男性のHIV専門医がこのプロジェクトを思い立ち彼女のところへ話を持って行ったのが始まりらしい。初年度、最初は70人の応募があったが、半年後に残ったのはたった一人であるという……
よほど厳しいんでしょうな。
そのたった一人残った黒人女性を始め、様々な人々が参加している。貧困のため売春をして感染した者、留学先でレイプされ感染した学生、付き合っていた男性からという者も。人種、国籍、階層--一つにはくくれないのである。
中に一人インド系かしらんと思って見ていた女性が--『ER』のニーラに似ていたからだが--そうしたら日系だったのが意外であった。
参加者のインタビューと共に、自分を語る詩を書いたものの演技については全くの素人で、それが周囲の助言や練習で立派なパフォーマンスになって自信をつけていく過程や、舌に障害があり(精神的なもの?)で来た当時はほとんど喋れなかったのが舞台で堂々と台詞を語る様子などが描かれる。
ミーティングの中で一人が子どもの頃に身近な人間から性暴力を受けたという話をしたら、次から次へと「私も」と他のメンバーから(指導者側のスタッフも含めて)出てきたのには驚いた。この問題の根深さを感じさせる。
タイトルのトークバックとは「言い返す」という意味らしいが、ここでは「声を上げる」という意味で使われている。声を上げることが自らを取り戻すことなのだ。
日本では、何も言わず耐えることが美徳であるような風潮だが、こちらは全くの逆である。
監督はやはり米国の刑務所の社会復帰活動を描いたドキュメンタリーを作っている人で、私は『ライファーズ 罪に向き合う』という書籍化したものを読んだことがある。
終演後のアフタートーク(というより「トークバック」)にはゲストの信田さよ子と共に登場した。ちなみに観客のほとんどは女性だった。
対談では、カウンセラーの力が及ばない領域だ、HIVの陰に性暴力がある、スポットライトを浴びることで被害者は救われる--というような話が出た。
監督の話では、冒頭にちょこっとしか出て来ない男性医師が、米国人に珍しい控えめな人物だが、実は多額の助成金をもぎ取ってくるスゴ腕だとか、作中には出て来ないがカウンセラーも含めて様々なプロが関わっているとのこと。
その後の質疑応答では、とある女性の、これからは「DVの元被害者だけどそれが何か(`´)」と言ってやるという発言に拍手が起こった。
と思えば、児童虐待の被害者とおぼしき方から深刻な質問が出たりもしたのだった。
私は、映画の中にメンバーとして登場していた足の悪い初老の白人女性が気になっていたが、結局最後まで彼女については取り上げられなかったので、どんな人なのか質問したかったのた。しかし、とてもそんな雰囲気ではなく時間もなかった。残念なり(-_-;)
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