「オール・イズ・ロスト~最後の手紙~」:アカデミー四文字言葉賞確実の叫びを聞け
監督:J・C・チャンダー
出演:ロバート・レッドフォード
米国2013年
広告で見かけた時、大海を一人で漂流っていうのはなんだか『ライフ・オブ・パイ』みたいだなーと思った。あちらは若い新人の役者だが、こちらはいくらかつての二枚目とはいえ、今はじーさんと呼ばれるのがふさわしい年齢のロバート・レッドフォードである。シワだらけの顔をずっと見ているのはキビシイという予感であった。
しかしながら、監督の名を見ればなんとあの『マージン・コール』の人ではにゃあですか
この監督さんの作品ならばなんとしても見ねばなるまい、と固く決意して行ったのである。
見るまでは、いくら一人漂流と言っても回想場面とか出てくるのだろうと思っていたが、実際には全く、何一つ出て来なかった(!o!) それどころか、主人公の名前すら明らかにならない。個人的な背景は一切描かれないのだ。
彼はヨットでインド洋を単独航行中、漂流するコンテナと衝突。浸水の危機に見舞われる。やっと穴をふさいだと思ったら、今度は嵐が接近するのだった……。
ほとんど台詞らしいものはなく、ただ男が孤独に淡々と(ある時は必死に)次々と襲い来る事態に対処する過程を描いていくだけだ。余計な回想も感情描写も一切なし。
では退屈かというと、そんなことはない。いつしか、見ているうちに自分も漂流している気分になってくるのだった。
そして、大掛かりなアクションシーンやド派手な展開があるわけではないが、そういう種類の映画よりももっと映画館で見るべき作品ではないかと思えた。
というのも、全編に渡り全身海にどっぷりつかっているように続く切迫感は、やはり大きなスクリーンで見た方がより迫ってくるだろう。それに波の音、ヨットがきしむ音などが全編満ちているのは、TVのモニターでは再現するのは難しい。(アカデミー賞の音響編集賞にノミネート)
ただ一人で孤独のうちに漂流するというのは、『ゼロ・グラビティ』と同じような状況である。海と宇宙の違いはあるが……。どちらも生還の可能性はゼロに近い。次々とトラブルが起こるのもだ。
それを主人公の過去と境遇に重きを置いて感動的に描く『ゼロ~』に対し、こちらの素っ気なさ、何もなさ、ただ漂流一本勝負な描写は大胆すぎるほどである。
一体、人間を描くとはどういうことか。深~く考えてしまうのであった。
ということで、明らかに主人公のことを歌っているとおぼしき、ラストクレジットで流れる歌の歌詞はぜひ訳してほしかったんだけどねえ……(ーー゛)
とりあえず、チャンダー監督には注目。次の作品も必ず見に行くぞ。
それにしても、あの「F●●K」はレッドフォード役者人生渾身の四文字言葉でしたなあ
レッドフォード度:9点
難破度:10点
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