「ある過去の行方」:人生、表あり裏あり
監督:アスガー・ファルハディ
出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム
フランス・イタリア2013年
今や「次作が最も気になる監督」の一人として注目のファルハディの新作は、故国を離れたフランスを舞台にしている。やはり複雑な思惑を抱えた男女の物語だ。
セリフだけでその複雑な設定を分からせる手腕はお見事。もっとも、それだけにボーッとして見ていると何がなんだか分からなくなる危険性もありだ。
「表」の物語をたどれば、こうだ。ヒロインのマリーは若い頃に結婚した前夫との間に二人の娘がいて、今はイラン人の夫サミールと別居状態である。彼女が現在付き合っている恋人と結婚するために、サミールが離婚届にサインしにイランから戻ってくる。
しかし、恋人の男には実は妻がいることか判明する。
相手を次々と変え、子どもの反対を押し切って男と再婚を図り、さらに男の妻の自殺に関わっているか疑わしいマリーは計算高いイヤな女に思える。
しかも、彼女の娘たちはサミールの方を慕っているのだ。ただし、恋人の息子はマリーになついているようである。
しかし、そのままマリーを悪女として受け取ってよいものだろうか? すべての出来事には裏があるようにも見える。見た通りのものは何一つない。
恋人の男と入院中の妻は以前から関係が悪化していた? 果たしてメールを妻は読んだのか読んでないのか。マリーはまだサミールに気があるのか。
長女が頑固に再婚に反対するのは男が手を出したのではないか? サミール(と観客)はそれを一番に想像して遠回しに彼女に尋ねるのだが、キッパリと否定する。しかし、男との二人きりの場面では彼の態度は限りなく怪しい。そもそも妻とマリーと長女はかなり似ているのだが。
語られてないことは山ほどあるようだ。
ファルハディ監督の作品は前々作、前作と描かれる関係はますます複雑になり、それだけ晦渋さも増しているようだ。見ているとくたびれてくる感がある。
劇伴音楽もないし、このまま行くとM・ハネケの域に近くなりそうだがあのイヤミさはない。相変わらず子供の描き方はうまい。
この監督のさかしげな部分を嫌う人も多いようである。まあそれは好みとしか言いようがないだろう。
新聞に載ってたインタビューによると、またイランに戻って映画を撮るそうだ。『別離』は一時製作許可を取り消されたりしたが、アカデミー賞を受賞したら政府は態度を180度変えたという。どこの国もお上ってのは同じですな(^・^)
ベレニス・ベジョはカンヌで女優賞を晴れて受賞。イライラした葛藤を常に抱える女を好演しております。長女役のポリーヌ・ビュルレは超美少女。これからが楽しみでやんす。
表度:6点
裏度:9点
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