「チスル」:虐殺のマジックリアリズム
韓国・済州島で実際に起こり、長い間タブー視されていた虐殺事件を題材に当地出身の若手監督が映画化したものである。
1948年、南北分断後に南だけで選挙を行なおうとするのに島民が反対したのが発端とのこと。実態がどうかには関係なく、島民はみな共産主義者であるとして処刑しまくったとのことである。
と書くとバリバリの告発調社会派映画のように思えるが、実際に見た印象は全く違った。
何やら切迫感にかけたのんびりとした調子で島民たちの会話が続くかと思えば、冒頭、雪の中で裸で立たされている兵士が登場する政府軍内部の描写はあまりに不条理すぎて乾いた笑いさえわいてくる。
その乾いた不条理はワン・ビンの「無言歌」を思い起こさせる。影響受けているんじゃないかと思ったほど。しかし、やや大げさな音楽が付いているのがワン・ビン作品と大きく異なる点だ。
気が弱い兵士、良心ある兵士は過酷な目にあう。日本兵が来た時も生き延びたという島民は数年後に同胞に殺される。なんという悲劇--いやこれも不条理であろうか。
一方で洞窟に逃げ込んだ人々の様子は牧歌的なほどにのどかでもある。
延々と繰り返すような描写はマジック・リアリズムの様相を帯び、最後には暴力と残虐は幻想へと回収されていく。
確かにこのようにしか描きようがなかったかも知れない。2時間弱の上映時間が脳ミソがしびれるようで、あまり時間感覚がなくなってしまった。
島民の役は実際の現地のシロートの人を使っているとのこと。誰が誰だか名前が全く覚えられなかった(^^;)
最後に太った兵士が、別の兵士を釜に入れてたのは何故?
不条理度:9点
告発度:4点
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