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2014年6月21日 (土)

「レイルウェイ 運命の旅路」:恩讐と鉄路の彼方に

140621
監督:ジョナサン・テプリツキー
出演:コリン・ファース
オーストラリア・イギリス2013年

この映画、チラシを見た瞬間に「あーっ、これ永瀬隆の話だ」と気付いた。彼については岩波ブックレットの『「戦場にかける橋」の嘘と真実』と、あまりに昔過ぎて書名も覚えていない著作を読み、亡くなる数年前に作られた30分のTVドキュメンタリーを見たことがある。

これは、彼が第二次大戦中、憲兵隊に所属しタイの日本軍の捕虜収容所で通訳をしていた時、逆の立場の捕虜だった元英国兵の自叙伝から映画化したものだ。

主人公のローマクスは元々鉄道マニアで、戦争後も鉄道技師として働いていた。しかしPTSDのため数十年経っても捕虜時代に受けた強制労働や拷問の悪夢に悩まされている。元上官から憲兵隊の通訳だったナガセが戦犯にもならずタイにいることを知り、決着をつけようとタイに向かう。

ここでは主人公が責任を問うているのは日本軍や国ではないようだ。自分に向かって「生きて虜囚の辱めを受けず」などと言っていた男が、敗戦後ものうのうと平和に生きているのが許せなかったのだろう。
これは国家同士が和解したとか、あるいは拷問ではなく諜報活動に対する尋問だとか、強制労働は違法ではないとか、通訳は言われたことを伝えただけだ--というような「論理」の問題ではない。被害者の「感情」はそのようなものでは解消できないのだ。
ナガセが過去の事件を「悲劇」と称するのは彼にとって噴飯ものである。主人公にとっては「犯罪」なのだから。

当地の戦争博物館でナガセを捕まえ、かつての立場を逆転して加害者の行為を反復した時、主人公は初めて悪夢から立ち直ることができた。この時、期せずして「修復的正義」の形を取ったといっていいのかもしれない。だから両者は「この日のために生きてきた」と言ったのだ。
それが不可能だった場合の姿を、S・スカルスガルド扮する上官の行く末に見ることができよう。

原作を読んでいないので両者の和解が何年に起こったのかは不明だが、「40年以上経って」と映画のサイトにあるから、1986年に出版された『「戦場にかける橋」の嘘と真実』よりも後だろうと推測される。ということは永瀬隆の捕虜との和解運動が既にある程度成果を収めていた時期だ。
このブックレットにはこの件についてこう書かれている。

その捕虜は一見よわよわしそうに見え、やさしそうな性格だったが、いざとなると、頑強に否認した。(中略)憲兵は、杖でなぐることもあった。
(中略)そしてその結果が、お決まりの水責めの拷問となる。

「マザー、マザー」と泣き叫ぶ彼を前にして、私も「お母さん、あなたの息子はいま、何をしているか知っているか」と心の中で呟いていた。

映画の場面がまざまざと思い浮かぶようである。もっとも、ナガセの側が何を考えていたのかは映画では分からない。そこでは日本人は徹底した他者として描かれて内実は不明だからだ。

冒頭の方で、捕虜たちを貨物車に大勢閉じ込めて水も与えず運んだ場面が出てくる。そして、見かねた現地の住民が水を与えようすると日本の兵士が殴る蹴るして妨害する。
これは見る者にナチスのユダヤ人移送を連想させる場面だった。かつてイタリアのユダヤ人を強制収容所に運ぶ際に同じようなことがあったと本で読んだことがある。
この二つが同一視されているというのは、日本にとっては相当まずいことだろう。

映画の冒頭は妻(ニコール・キッドマン)との出会いの場面が長くてどうなることかと思ったが、その後が悲惨な展開なので、結構あの純愛部分が救いになるのだった。そのせいか公開時の宣伝は夫婦愛を中心にしていたようだが、それを期待していくと「騙された~impact」となるだろう。
その二人がいる海辺の風景や緑豊かなスコットランド、タイの風景が美しく撮られている。

実物の年齢を考えると主役のコリン・ファースはなんとか老け演技でまだしも、ナガセ役の真田広之は若過ぎ。外見も似てません\(◎o◎)/!
N・キッドマンはもういい歳のはずなのにシワもなくてキレイshine「よっぽどお金かけてるのかしらん」なんて思ってしまった(^o^;) それと美人の女優さんが着るとシンプルな無地のカーディガンも素敵に見えるから不思議。でもシンプルとはいえ、カシミア製の高そうなヤツみたいだったけど。
宣伝されてなかったが、S・スカルスガルドもかなり重要な役どころだった。

暴力の被害者の回復などに興味がある人はオススメだが、日本人としては見たくないことのオンパレードの内容なので(拷問場面もギャーッ(>O<)だ)、「日本は美しい一流国」と思うような人は最初から見ない方が吉であろう。


被害者度:8点
戦勝国度:3点


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