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2014年8月27日 (水)

「イーダ」:堕ちて還りし物語

140827
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
出演:アガタ・クレシャ、アガタ・チュシェブホフスカ
ポーランド2013年

1960年代初頭のポーランドを舞台に、一人の少女の魂の彷徨を描く--と簡潔にまとめようと思えばまとめられるのだが、その背後にヨーロッパ近現代史の重みがズッシリと覆いかぶさっており、果たしてよそ者に理解できるのかどうか不安になるような作品である。

辺鄙な修道院の尼僧見習いの少女が、正式に修道女になる前に叔母に会いに行くように言われる。叔母は検事という要職についていながら極めて退廃的な生活を送っている。
彼女は少女が自分と同様、実はユダヤ人であることを告げるのだった。タイトルの「イーダ」とは少女のユダヤ人としての名である。
叔母は戦争時にはレジスタンスで活躍したらしいのだが、今では何か鬱屈したものにとらわれているようだ。その理由は最初は分からない。
この対照的な二人が、少女の両親が亡くなった地へと向かうのだ。

見終わって思い浮かべたのは、アーミッシュの儀式である。うろ覚えだが、なんでも若者は十代のうちに一度、都会へ出て好きなことをしまくって暮らし、その後にまた信仰に戻るかどうか決めるとのことだ。確かTVドラマシリーズの「コールドケース」でも題材にされていた。

閉ざされた、しかし静かで純粋無垢な修道院を出て、自分の出自から始まる悲惨で恐ろしい事実を知る。そして、良いことや悪いことや楽しいことや苦しいことや全てを味わった少女は、最後にまた自らの進む道を決断するのだ。

旅の途中で出会ったジャズ・ミュージシャンが演奏するコルトレーンの曲が、美しく甘~い 教会の中では絶対に耳にできないような俗世の甘い響きである。
また、ラストの歩く少女の背後にバッハのコラール前奏曲は、ピアノ演奏で一種の軽やかささえもって流れる。
そういう音楽の使い方がとてもうまい。

監督はポーランド出身の若手で、初めて故国に戻って作った作品とのこと。過去のポーランド映画を想起させる場面が多いらしいが、私はほとんど知らないのでそこら辺は詳しくは分からなかった。

モノクロ、スタンタード・サイズで、構図的にも極めて印象的な画面作りがなされている。しかし、上映館のイメージ・フォーラムではスタンダードのほぼ正方形に近い画面の上の辺が、ほとんど天井近くまで届くように引き延ばされて上映された(ように見えた)。
ところが、やや前よりの列に座ってしまった私には、画面全体(特に上方)が視界に入り切らず、折角の構図も台無しであった。ムムム(ーー;)

ヒロインの少女は役者としては素人で、ウェイトレスをやってる所をスカウトされたとか。その素朴な面が役柄とマッチしているようである。

80分と、昨今の映画にしては短めだが、十分に見ごたえあった。ただ冒頭に書いたように、ポーランドの歴史を理解していないと大切な部分を見逃しているような気分になったのは事実である。


堕落度:8点
信仰度:9点

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