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2014年8月14日 (木)

「建物と日本人 移ろいゆく物語」

140814
著者:共同通信社取材班
東京書籍2012年

2010年末から1年かけて、共同通信から配信された連続シリーズの記事を一冊の本にまとめたものである。50か所の「建物」とそこに関わる人物を紹介する。
建物といっても、厳密な意味の建築ではなく「場」と言った方がいいかも知れない。さらには日本国内だけでなく海外も登場する。

例えば、ニューヨークの911事件の跡地「グラウンド・ゼロ」とそこでガイドをする日本人遺族。ブラジルにある神社(なんとなく教会っぽい)と鳥居。
札幌のオートバイサーカス小屋なんてのもある。大間原発予定地の喉に突き刺さる小骨のような「あさこはうす」、80年も前に建てられたエコ住宅の「聴竹居」--。
かと思えば、東京スカイツリーや札幌の時計台なんて有名どころもあり。後者は戦前放置されていた時期があり、近所の時計店主がボランティアで修理・維持したという。(今も人力で管理)

それぞれ写真が掲載されているが、鳥取の三仏寺投入堂はすごい(~o~;) 絶壁にお堂が立っている。どうやって建てたのか 10~11世紀ごろ建立で残っているというのはオドロキだが、そのいわれは全く不明とのこと。

他に、面白かったのはタンザニアの島ザンジバルにかつてあったという「ジャパニーズ・バー」。日本から見れば地の果てだが、1921年には当地に12人の日本人が住んでいたという。そこに出入りしていた一人の女性は日本から東南アジアへ出て、さらに流れて来たらしい。バーの建物はまだ残り、近所の住人は彼女を記憶している。スワヒリ語を上手に話したが、ネコに話しかける時は日本語だったという。
まさに土地は人の記憶の堆積であると感じる。

また、89歳で作家としてデビューしたと話題になった久木綾子という作家は、山口の五重塔に魅せられて東京から通い、パソコンを習い80歳代半ばでそれを題材に小説を書き始めた。この話には別の意味で感慨を抱いた。
彼女は若い頃から小説を書きたかったが夫が嫌がったのであきらめたというのである。
それを読んで、作家同士で結婚するのに断筆するのを条件にされた某女性作家や、有名作家だった夫が亡くなってから、小説を発表して名をあげた某々女性作家、さらに独自の作風で評判だった幻想SF作家はやはり夫に反対されて筆を一時期断っていた……なんて話を次々と思い出した。
ちなみに、彼女がその五重塔に行ったのは夫が亡くなってからだそうな。

いずれにしろ、この本がしみじみとした味わいの好著であるのは間違いない。

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