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2014年11月11日 (火)

「悪童日記」:狂気を乗り越えるには狂気をもってせよ

141111
監督:ヤーノシュ・サース
出演:アンドラーシュ&ラースロー・ジェーマント
ドイツ・ハンガリー2013年

邪悪にして不吉。
第二次大戦下のハンガリーのお話です。戦況悪化で主人公の双子の少年の父は出征し、母は田舎町にある自分の実家へ子どもたちを疎開させます。ただし、そこにいるのは「魔女」と呼ばれる恐ろしい祖母だったのです(>y<;)ギャー

寝台さえない暗く小汚い家で、バーチャンは双子をこき使って働かせ、母親が送ってくる物資は全て横取り、愛情こもった手紙も見せやしません。
なんて可哀そうな少年たち でも、子どもはすぐ環境に適応できるもの。しぶとく生きるすべを身に付けます。そして、二度と傷つくことないように互いに鍛えあうのでした。健気ですねえ。

双子の前に様々な人物が現れては消えていきます。隣家の少女、ドイツ軍の将校、ユダヤ人の靴屋、司祭、教会で働くきれいなおねーちゃん、脱走兵……。
その度に彼らはもはや傷ついたりせず、いつしか、邪悪と思えたバーチャンとも共同体のようになっていきます。
正邪、善悪が引っくり返り、もはや元に戻ることはないのでした。

そして、どうして双子は最後にああいう決断をしたのか?……そこら辺は描かれてないので全くわかりません。この先二人がどうなるのか知りたいものです。

見終わって思い出したのは『さよなら、アドルフ』でした。こちらはドイツ人の子どもの物語で立場が逆とはいえ、親と別れて様々な人と出会い、様々なものを目撃します。
もう二度と戻ることのない彼らの変貌にこそ、ヨーロッパの近現代史の暗~い部分が淀んでいるようです。やっぱりコワい話ですねえ。

双子が毎日綴るノートは、まるで現代アートのコラージュ作品のよう。しかも偏執的かつ呪術的です。映像も美しい。白い林の場面など印象的です。音楽がこれまた不穏でゾクゾクいたします。
最初に不吉などと書きましたが、実はテンポ良くて面白く、アッサリしています。そう、一種の爽快感とでもいいましょうか。まあ、良い子には薦めませんけどね

「双子」を演じる双子は、監督が国中の学校に手紙を送って、子どもの中から探し出したそうですが、とてもシロートとは思えません。もっと名演なのはバーチャン役のピロシュカ・モルナー。こちらも映画出たのは初めてだそうで、驚きでありますよ。


映画を見た後に、原作を読んだ。なるほど、こちらの方は確かに「悪童」である。
国も時代も明確に書かれていなくて、余計にマジック・リアリズム度が高くなっている。
「悪童」よりも「日記」に重きを置いた映像化は吉と出たようだ。
ところで、映画と逆に原作のバーチャンは小柄で痩せこけている。それで、私は自分の祖母を思い浮かべた(性格も似ている)。東西場所を選ばず、こういうばーさんはどこにでもいるものなのだろうか(>y<;)


ふたりはいつも度:9点
いじわるばあさん度:9点


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