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2014年11月30日 (日)

「判決破棄」上・下

141130
著者:マイクル・コナリー
講談社文庫2014年

リンカーンを事務所代わりにロスの街を走り回る「リンカーン弁護士」シリーズ第3作目。映画化もされてメデタイこっちゃと読み始めたが、同じ作者の別シリーズの主人公である刑事ハリー・ボッシュ(異母兄弟)が登場--するのは、以前にもあったので珍しくもない。しかし、なんと弁護士ハラーが従来通り一人称で語る章とボッシュが中心で三人称で進行する章が、交互に登場しては時系列に沿って描かれるのだった。

「リンカーン弁護士」シリーズと言っても、こりゃ半分はボッシュ・シリーズじゃないですかっ(^^?) 一冊で二度おいしい……おっと、上下巻だから二冊で二度おいしいとはこのことだい いや、それとも作者の商売上手というべきか。

さて、今回の事件は二十数年前に少女誘拐殺人事件で有罪判決を受け、服役していた男について、DNAの再鑑定により別の容疑者が浮かび上がる。判決は破棄され囚人は保釈されて、差し戻し裁判となる。その元「犯人」をハラーが弁護する--のではなくて、様々な思惑と成り行きでなんと検察側を代行するのだった。
日本だとこんなことがあるのか(!o!)と思うが、過去の小説ではS・マルティニの『重要証人』でやはり主人公の弁護士が検事をやる羽目になってた。

ハラーの側では裁判の準備、ボッシュ側では元犯人や過去の証人の調査をすることになる。古い事件なのでかつての目撃者を捜すのも簡単ではない。

裁判の行く末は極めて皮肉なものである。もちろん、法廷場面だけでなく派手な展開も終盤にあるのだが、結末の収束については地味すぎると不満に思う向きもいるかも知れない。

それにしても、ハラーの目から描写されるボッシュは付き合いにくく、無愛想で頑固者に見える。こんな奴だったのか(!o!)--いやそれとも、彼も歳くったせいなのか? こんなんで、思春期に突入する娘と付き合っていけるのかしらんとオバサンは心配よ。

そして、最後に彼は語らざる石の如く捜査の中に埋没していく。過去の歳月に消えた被害者のために、地道な作業を続ける。その姿はもはやヒーローというには程遠いものである。だから、エンタテインメントとしての派手な結末など望むべくもない。
読者は、もうヒーローなどいないことを思い知るだろう。
とすれば、やはりこれはボッシュではなく、リンカーン弁護士ハラーの物語なのである。

【関連リンク】
「リンカーン弁護士」
「真鍮の評決」
映画版「リンカーン弁護士」

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