「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」:僕と彼と計算機と
監督:モルテン・ティルドゥム
出演:ベネディクト・カンバーバッチ
イギリス・米国2014年
結論から言えば、ベネディクト・カンバーバッチが一人って背負って立っている映画である。決してアラン・チューリングの映画ではない。いや、両者は混ざり合って果たして一体どちらを見ているのか分からなくなるぐらいなのだ……。
チューリングったら電子計算機の初期開発者の一人--ぐらいの知識しかなかった。実際には第二次大戦時にドイツの暗号「エニグマ」解読にたずさわり、対戦を勝利に導く一方で、同性愛者として苦悩していた、などということは全く知らなかった。
彼は現在なら発達障害などと診断されていただろうか、他者とのコミュニケーションが取れず自分の研究に没頭する。チームワークなんぞ気にしないのだ。
そういう男を中心にして物語は描かれる。他の登場人物のほとんどは敵対して妨害する者、あるいは障害となる者である。唯一の例外は、キーラ・ナイトレイ扮する婚約者だが、後半スパイものめいた展開になると彼女もはじき出されてしまう。
もう一人、真の理解者がいるのだが回想の中にしか現われない。
本来ならば到底、観客が感情移入できないような人物をカンバーバッチはよく演じている。特に無表情な顔に微かに怒りが走っていく場面はお見事としかいようがない。
終盤の孤独な姿は涙を誘うであろう。
それはひっくり返せば、カンバーバッチ以外存在しないような世界となってしまうわけであり、それが唯一の不満と言えば不満である。
実際の暗号研究施設はもっと大規模で多数の研究員がいたらしい。それと、欧州大戦の帰趨を全て握っていたのは英国である<`ヘ´>、というのは他の国々から異議が出そうだ。
私はむしろ、これほどまでにすごい暗号システムを考えたのはどんな人物なのだろうかと、そっちの方に興味が湧いてしまった。
アカデミー賞の脚色賞を取ったG・ムーアは、授賞式でのマイノリティの若者へメッセージを送るスピーチで涙を誘い評判となった。
美術や衣装もレベル高しであったよ。
それにしても同性愛者の名誉回復は、戦争の英雄であることを引き換えにしなくてはできないことなのか? そんなことが必要でなくなる世界が早く来てほしいもんだ。
終わり近くで、K・ナイトレイが感動的なセリフを語って思わず涙が……その時、すぐそばの座席から無情にもポリ袋ガサガサ音が響くのであった。よりによって一番のクライマックスに(>O<) あんたは映画見に来たんじゃないのか
暗号迷宮度:7点
人生迷宮度:9点
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