「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」:愛と音楽とドラッグは国境を越える
極めて衝撃的な内容のドキュメンタリーである。『アクト・オブ・キリング』に匹敵するといってよいだろう。
二人の人物を中心として描く。
一人は、米国との国境にあるメキシコの街の警察官である。彼が子どもの頃は平穏な街だったが、近年麻薬組織が台頭してあっという間に治安が悪化したために、なんと殺人事件年間3000件にのぼるようになってしまったという。
現場に赴く捜査官といっても聞き込みなどするのではなく、いわゆるCSI、日本だと鑑識に当たる作業を担当する。それでも、危険なので武器を携帯し顔が分からないようにマスクをかぶるというから驚きである。
毎日、現場へ行って証拠を採取し、その結果を送るが、事件が解決することはほとんどない。
その間にも上司が脅されて職を辞めざるを得なくなったり、仲間が殉職したりする。さらには若い捜査官がインタビューに答えた場面に、この後彼は殺されたなんて字幕が出るのであった。
もっとも、その取材されている捜査官は別に強面ではなくて、両親と共に暮らす穏やかそうな青年である。(30代半ばらしいが、10歳ぐらい年上に見える)
すぐ間近に見える国境の向こう側、米国のエル・パソでは年間の殺人は5件だというからその差は大きい。しかし、実際は麻薬は国境を越えて米国へ流れていくのである。
もう一人、米国ロサンジェルスに住むメキシコ系の若い歌手が交互に描かれる。彼は「ナルコ・トリード」という麻薬王たちを讃えるジャンルの歌で売出し中だ。
多くの人々は虚構としてその歌を楽しんでいるようだが、彼は平和なこちら側では実感がないということで、メキシコに行ってまさに「体験」を謳歌してくるのであった。映画を作る場面は悪趣味で笑ってしまった。
まあ、日本でもヤクザ映画など大衆娯楽のジャンルになっているが、ここまで来るとやり過ぎとしかいいようがない。ヤクザ映画に本物のヤクザが出演してるのと同じだ。
「ナルコ・トリード」はTVドラマの『CSI科学捜査班』で取り上げられたことがあるというのだが、そう言えばあったかなあという記憶力なのであったよ。
映画はこの対照的な両者の姿を淡々と描く。対照的ではあるが、双方とも暴力の中にある。暴力は恐怖の世界を支えるように底に淀んでいる。その原因の一つは、メキシコが米国に最も近い「裏庭」であることは間違いないだろう。
なお、死体がゴロゴロと画面に出現するので、気の弱い方は避けた方がよろし。
暴力度:9点
正義度:4点
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