「セッション」:私はあなたの犬になりた~い
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ
米国2014年
オスカーの助演男優賞を始めJ・K・シモンズが演技賞を総ナメにして話題になったこの映画、絶賛意見多数の中でミュージャンが批判して騒動になった事もあって、大いに期待して見に行った。
しかし結果は……こりゃとんでもないモンを見ちまったな、というのが正直なところである。
例えて言えば、中華屋で麻婆豆腐を頼んだらやたらに辛過ぎて、豆腐の味も野菜や肉も何も分からなかったというのと同じだ。「あ~辛っ(~Q~;)」で終了。
音楽学校でジャズ・ドラマーを目指すもあまりパッとしない若者が、名物教授に彼のクラスのバンドへと抜擢される。
だが、その教授は実は『フルメタル・ジャケット』の鬼軍曹みたいなヤツだったのだ~っ、ウギャーッ(☆o◎;) そして、若者をシゴキまくりイジメまくるのであった。
追い詰められた彼は「芸のためには女は要らぬ」とばかり、折角できたカノジョをも振ってしまうのであった。勿体なや(>_<)
まるでスポ根マンガか『ガラスの仮面』か
みたいな展開であるが、ここで不思議なのは件の教授がバンド全体の演奏とか曲の仕上がりとかには全く気を留めてないことである。普通、チームの監督とか芝居の演出家だったら試合やステージ自体を壊すようなことはするはずはないのだが、才能があるかどうかも分からないのドラマーの卵にそれをやっちゃうのである。
意図不明である。全てをブチ壊しても構わないという破壊願望を持っているとしか思えない。大体にして舞台の上のまんじゅうを泥団子にすりかえるような事を月影先生がするかっていう話ですよ。
教師として、バンドの指揮者としても完全失格であろう。
しかし、この映画ではそれはどうでもいいことなようだ。
優しいが冴えない父親の下では世に出ることはできない。最初から母親は不在で、女の子も切り捨てて、若者はもう一人の強大で厳しい父を選ぶ。
ラストの長いソロ演奏の結末は、決して試合に勝って天才を発揮したとか、互いに和解したなどというようには見えない。飼い主に骨を遠くに投げられて、咥えて戻ってきた子犬が褒められるようなもんである。
その証拠に最後の若者の表情は飼い主にすり寄る子犬の如き恭順と従属の喜びにあふれているのであった。
「ご主人様、ようやくできました」
それだったらエンドクレジットに流れるのはイギー・ポップの「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」の方がふさわしいだろう。
さらに一番の問題は作中で演奏されている音楽がどうにもつまらないことである。見ている途中もいいとは感じないし、見終わった後もまた聞きたいなどとは思わない。こんなつまらないものに必死になっているという登場人物たちはなんなのだろう。
そんなにリズムがピッタリじゃなくちゃイカンのなら、打ち込みでも使うか、巨大なメトロノームでも置いとけばいいと思っちゃう。
『フォックスキャッチャー』はレスリングが主題の映画ではないが、その試合や練習の場面は迫力があった。『3月のライオン』で、将棋の場面が手抜きだったら興ざめだろうよ。
さらに、他の感想を読むと教授の過激で刺激的な言動がこの映画の全てであるかのような評価をされている。
『フルメタル・ジャケット』は鬼軍曹の登場する前半だけを高く評価し、後半が詰まらないとする意見をよく見かけるが、その理由が初めて分かった。
本来、あの映画では前半後半は互いに補完関係にあって、双方があって初めて成り立つはずである。しかし「刺激」だけを基準にして見たら、なるほど後半は退屈だろう。
でも、辛いものだけを食いたいなら麻婆豆腐じゃなくて唐辛子でもかじってればよいのではないか?
J・K・シモンズは確かにオスカー獲得も納得の演技である。
彼を初めて見たのは、監獄ドラマの『オズ』で恐ろしい囚人シリンガーを演じた時だった。どのくらい恐ろしいかというと、道で100メートル先に彼を見かけても、ギャーッと叫んで直ちに逃げ出すほどだ。もっとも、その後『クローザー』の食えないオヤヂで笑わせてくれたりもしたが。ようやく公に認められてメデタイこってす。
シモンズの陰で割を食ったのは若者役のマイルズ・テラーだろう。ドラムも叩きまくって熱演なのにねえ。レッドカーペットの写真見たら、普通に好青年であった(ただ、あの顔の傷は?)。これからも頑張って下せえ。
辛味度:9点
旨味度:1点
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