「スライ・ストーン」:生ける天才の最大の敵は忘却か
『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』や『シュガーマン 奇跡に愛された男』のような、過去のミュージャンを取り上げたドキュメンタリーである。
忘れ去られたミュージシャンの功績を辿りつつ、その人物を「再発掘」して感動のラストへなだれ込む--というのは、今ではかなり模倣されてブームとなった感がある手法だが、この作品ではそれを目指した作り手の意図とは逆に、盛り上がらぬまま収束してしまうのであった。
スライ・ストーンは自らのグループであるファミリー・ストーンを率いて60年代末から70年代中ごろまで活躍するが、人気が下降して解散。やがて消息を絶ってしまう。
映画の製作陣は元々ファンで、この映画では2005年頃から彼の行方を探している。
その捜索の顛末と並行して、スライの半生が当時のライヴ映像や関係者のインタビューを通して描かれる。途中からスライ熱狂者(しかし生では一度も彼を見たことがない)の双子も登場して、さらに探索度が深まる。
そして、遂に本人が~(!o!)
スライは間違いなくブラック・ミュージック、ロック史に登場する天才の一人で、各方面に与えた影響は大きいだろう。曲作り、サウンド、ライヴ、全てに秀でていた。
特に、コンサートの開演に遅れるのが常で、遂に会場で暴動が起こったというエピソードが取り上げられているが、「スライのコンサートなら5時間待つ価値はある」という新聞記事が出てきたのには納得だ(^O^)
また、バンドが男女人種混合というのも先端を行っていた。(というか、今でも少ない?)
しかし、天才はまた扱いやすい人間ではない。周囲との軋轢やトラブルも発生するのだった。
こうして過去を辿ってみると、彼もまた70年代末から80年代に起こった音楽の大きな変動に耐えられなかったのではないかと思った。台頭するパンク・ニューウェーヴ、ディスコ・サウンド、第二期英国勢来襲……当時のベテラン・ミュージシャンは対応しきれず、スランプ状態になった。そんなことを思い出した。
隠遁状態になった彼を引っ張り出そうと多くの人々が奔走する。中でも、グラミー賞の授賞式でライヴを実現させたものの致命的ミスに足を引っ張られたナイル・ロジャースの話は、泣くに泣けないあまり、逆に笑ってしまった
日本にも数年前来日したはずだが、確か10分ほどステージに出て来て引っ込んでしまったという記憶がある。それでもファンは満足してたようだが。
あと、印象に残ったのはグループの最盛期に黒人運動過激派から資金を出せと言われて、暴力は嫌いだと断ったエピソードである。『JIMI:栄光への軌跡』やジェイムズ・ブラウンの伝記映画にも同じような話が出てきた。当時の黒人アーティストには踏絵みたいなもんだったのだろうか。
結末は感動には到底至らなかったが、編集のテンポよく決して飽きることがない。私はこの時代のブラック・ミュージックには疎いので、勉強にもなりました。
天才でも忘れ去られるが、語ることによってそれもまた生き続けるのである。
マニアの執念度:9点
栄枯盛衰度:8点
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