「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」:芸のためなら母も友人も過去も捨てて、また拾う
監督:テイト・テイラー
出演:チャドウィック・ボーズマン
米国・イギリス2014年
最近見た伝記もの(ミュージシャンに限らず)の中では一番出来が良くて満足できた。いや満眼・満耳というべきか
冒頭は中年期、自分の経営する店にラリって乱入して銃をぶっ放し逮捕されてしまうという炎上エピソードから開始する。その後、極貧の子ども時代や、ベトナム戦争で慰問公演に突撃など、時間軸を頻繁に上下して話が進む。もっとも視覚的な面で区別がつくようになっているので、分かりにくいということはない。
140分というのは結構な長さだが、ライヴ場面も多く有名曲をたっぷり聞けるので私のようなJB初級者にも楽しめた。
ステージ部分は既存の映像を参考にしているのだろうが、主演のチャドウィック・ボーズマンのダンス・パフォーマンスはもちろん、編集もリズミカルでグイグイ引き付けられる。
音楽自体は、楽器については当時の録音を使い、JBのヴォーカル部分だけ他の歌手が吹き替えたということでいいのかな?(パンフ買わなかったし、ネットで調べると諸説紛々でよく分からないのよ)
とにかく迫力がすごい。
伝説のボストン公演も再現してある。キング牧師の暗殺直後の公演で、暴動が起こるは必至。中止を勧告されたけども敢行したというものだ。しかし、ステージ上に市長や警官隊まで控えていたとはビックリである。さらにTVで生中継されてたとは知らなかった。そりゃ、確かに暴動の危険性ありますわな(*_*;
一方、掘立小屋に暮らす少年時代は悲惨の一言だ。父親の暴力で母親は出て行ってしまい、やがて父親からも捨てられて売春宿を経営する叔母に預けられて育つ。
長じて名曲「マンズ・マンズ・ワールド」で「やはり女がいなくては--」と歌う場面に、些細なことでJBが妻を殴る姿が挿入される。母親が殴られるのを目撃し、さらに自分も父親に殴られたというのに、なぜ自らも繰り返すのか。その矛盾を容赦なく描く。
また、天才には定番の事態--周囲に対する要求が高過ぎて仲間のミュージシャンの離反を招くエピソードも描かれるが、天才というだけでなく彼の内に潜む妄執が駆り立てているようでもある。
JBがカメラ目線で喋る場面も度々出現。これは『ハウス・オブ・カード』の影響か?
また、金持ちの白人たちが黒人の少年同士をリングで闘わせてそれを見物する(こんなこと本当にやってたのか)という回想が登場する。闘ううちに背後の楽団(もちろん黒人の)が突然イージーリスニングから煽り立てるようなジャズを演奏し始め、リアリズムから逸脱していく。同じような手法が散見されて面白い。
監督は『ヘルプ 心がつなぐストーリー』と同じ人だが、いささかどっちつかずで生ぬるい印象もあった前作と違って、こちらは圧倒的パワーを出している。
JB役のC・ボーズマンは『42 世界を変えた男』で、やはり実在の人物(野球選手)を演じていた。
ハッキリ言って体格も顔も全くJBとは似ていないのだが、強烈なキャラクターを再現し、ついでにあのオーラまで漂わせてしまうのは恐るべし。
コンサート会場の通路を一人歩む場面では、天才の自負と孤独がメラメラと立ちのぼって見えるのだった。
にも関わらずアカデミー賞の男優賞にかすりもしなかったのはなんだかなー(-_-)である。まあ黒人枠は『グローリー』に取られちゃったから仕方ないのか。
ともあれ、JBの濃い~人生に満腹状態となって終了したのであった。
リトル・リチャードがおネエ様とは知らなかった。彼が予言した「白人の悪魔」は結局登場しなかったが、尺の関係で割愛されたのか。
ユダヤ人のマネージャー(ダン・エイクロイドとは気づかず)がいるけど、こちらは悪魔どころか「いい人」として描かれている。実際はどうだったのだろうか。
芸能度:9点
ライヴ度:10点
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