「グローリー 明日への行進」:石橋を壊して渡る
監督:エヴァ・デュヴァネイ
出演:デヴィッド・オイェロウォ
米国2014年
今年のアカデミー賞主要部門にノミネートされていた中で一番公開決定が遅かったのが、これだろう。公開されてヨカッタ(^○^)
米国では記念日まで作られちゃってるキング牧師。しかし、平均的日本人だと名前は知っていてもいざ詳しい業績となると、漠然としたイメージしかないのが正直なところだ。
この映画では、彼の活動の中でも大きな意味を持つ1965年の「セルマの行進」を取り上げている。(と言っても、私個人はこの映画見るまでセルマのこと知りませんでした)
その描写は常に抑制された印象だ。キング牧師、黒人の権利獲得目指してガンガン行きまーすという感じではない。
セルマの土地の住民や学生活動家たちは様々な思惑があるが、彼の方は国全体の運動からアクションや効果を考えて動かねばならない。その点ではキング牧師も色々と悩める男だったのが分かった。
悩むと言えば、当時のジョンソン大統領も色々と板挟みで大変だった(あまりよく言われることのない大統領だが……)。
そして、悪役を一手に引き受けてる感があるのはアラバマ州知事だが、彼にもそれなりの言い分があるのも描かれている。
この手の話だと、一人ぐらい「理解ある白人」が登場するのが常だが、重要な役でそういう人物は出て来ない。アカデミー賞のノミネートが作品賞と歌曲賞だけに終わったというのは、そのせいなのか(?_?)
内容はかなりキング牧師の演説再現に時間を割いている。最初意外だったけどよくよく考えてみれば、彼のスピーチ場面は、例えばミュージシャンの伝記映画だったらライヴに当たる部分だ。重視するのは当然のことだろう。
そのスピーチ、実は著作権をS・スピルバーグが持っているので、脚本では似たような言葉で微妙に書き換えた--というのを後から知って驚いた。なかなかのスゴ技だ
余談だが、日本の政治家はあまり演説力は必要とされてないような。特に今の総理を見ているとね 自分のイヤな話題になると途端に滑舌が悪くなるのはどういうことでありましょうか。閑話休題
一方、「浮気力」が非常に強かったという話はあまり直接には出て来ない。奥さんに詰問される場面はあるけれど……(ーー;) まあ、記念日が制定されるほどの人物なんだからその手のエピソードはあからさまには出せないのだろう。
「偉人」ではなくあくまでも活動家としての彼を地道に描いた映画という印象であった。
それにしても、この時点でキングは34歳という若さなのにビックリ(!o!) その前にノーベル平和賞も貰ってたんだから、どれだけ大したものかということである。ん?やっぱり偉人か
ただ、邦題は--なんですか、こりゃ? 『グローリー』ってデンゼル・ワシントンがアカデミー賞獲得した南北戦争の映画と同じじゃないの 紛らわしい。
主演のデヴィッド・オイェロウォは『大統領の執事の涙』の息子役だった人。えーっ貫禄付きすぎで驚いた。加えて、大統領役のトム・ウィルキンソン、州知事のティム・ロス、奥さん役も含めて、主要な役者がみな英国人だというのも驚きだ。米国の歴史の重要な物語なのにね。
端役が豪華(マーティン・シーンなど)と思えば、黒人俳優ではTVドラマでお馴染みの顔も幾つか見かけた。
さて、アカデミー賞は結局、事前に確実と言われていた歌曲賞を取った。ステージに上がってきたジョン・レジェンドのスピーチは、なんとこの日の授賞式最大の爆弾発言であった。
J・レジェンドと言えば、外見的にも音楽的にも「中高年世代がムコにしたい若手ミュージシャン」で一位になりそうな堅実さとマナーの良さが特徴である。しかし、そこで語ったのは「状況はこの作品の時代よりも悪くなっている。監獄に閉じ込められている黒人の数は現在の方がはるかに多い」というようなことだった(最初見たWOWOWの字幕はもっと意味不明な訳で何を言っているかよく分からなかった)。期せずしてシンと静まった会場。だが、そこで彼のスピーチは終わったので、それ以上何事もなく拍手と共に次へ移ったのであった。
それにしても、過激な発言にビックリであったよ。
演説力:9点
浮気力:不明
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