「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」:夢はあっても、金がなくちゃね
監督:J・C・チャンダー
出演:オスカー・アイザック
米国2014年
『マージン・コール』や『オール・イズ・ロスト』で注目の監督の新作である。
なかなか公開が決まらなかったので、もうダメか(>_<)と思っていたら公開されたメデタイ\(^o^)/
--と言いたいところだが、原題『モスト・ヴァイオレント・イヤー』がなぜこの邦題になる(?_?) しかも、前宣伝ほとんどなくて公開直前の新聞の広告見て初めて気づいた次第だ。
ニューヨークはジュリアーノが市長になって改善されたそうだが、それまではかなり治安が悪かった。これはそんな1981年のニューヨークが舞台となっている。、
主人公はオイル販売の小規模業者だが、事業拡大のために全財産を賭けて土地を買い取ろうとしている。しかも新築の家を建てたりもして意欲満々である。
妻はマフィアの娘だが、彼は常にクリーンなビジネスを心掛けている。従業員への心配りも抜かりない。土地の買い取りは銀行の融資を受けてやるつもりで契約をする。ダーティ・マネーなぞには手を出さないのだ。
ところが、輸送中のタンクローリーを強奪される事件が続発。このままでは土地代金を払えない事態に……
おまけに営業マンが襲撃されたり自宅に不審者が出没したりと、何かと不穏である。同業者の妨害か? さらに検事からは脱税で告訴すると宣告されてしまう。弱り目に祟り目だ。
都市部ゆえかオイル販売も中小企業が狭い地域で縄張り争いが苛烈である。その様子はマフィアの派閥争いにも似ている。そのせいか『ゴッドファーザー』のようなマフィア映画を連想させるところがある。主人公が業者たちをレストランに集める場面などは、彼はアル・パチーノそっくりに見えるのだ。
また暴力場面は登場するが、なぜかバイオレンス映画的ではない。かと思えば『フレンチ・コネクション』ばりのカー・アクションが登場する。私など暗いトンネルに入った場面で、恐ろしくてウワ~~っ(>O<)と叫びたくなってしまった。
しかしなぜかアクション映画のような躍動感はないのである。
主人公が守ろうとする善やモラルは周囲からボロボロと剥がれ落ちていく。妻、弁護士、組合長、同業者……徐々に正体が露わになってくる。
彼が借金を申し込むと、同業者がこれで弱みを握れるぜ(*^^)vと嬉しさのあまりテニスの素振りを始めるのには笑ってしまった。(『マージン・コール』でS・ベーカーがトイレで歯を磨いている場面を思い出す(^O^;)
そんな中でも彼一人はモラルを守ろうとする。
マフィアものなら悪を犯しても「絆」は強まるが、ここではそんなことはない。最後に至って、唯一公正にして高潔を絵に描いたようなD・オイェロウォ扮する検事もその正体を見せる。しかし、主人公はただ「正しい道を通ることが肝心」と持論を繰り返すだけである。
本当に彼は正しい道を通っているのか?
その答えは、終盤トラック運転手が倒れた時に最初に何をしたかを見れば明らかだろう。彼の理想は実際には崩れかかっているのだが、彼自身だけが気付いていないようだ。
映像の間合い、照明の使い方(自然光?)、荒涼たる都市の光景--いずれも独特のものがある。
オスカー・アイザックを始め役者陣は演劇風……というのもまた違う、うかつに内面を垣間見えさせない、得体の知れないものを潜めた演技になっている。
新人営業マン役の人はどこかで見たなあ(?_?)と思ったが、後でドラマ『ボードウォーク・エンパイア』で主人公の甥だと思い出した。
ただ、残念なのは前半の展開にもう少しキレがあればよかったのに--。嵐の前の静けさが静か過ぎという印象である。
オイル事業所の従業員更衣室が、更衣ロッカーと同じスペースに便器がむき出しで並んでいて、汚くて妙にリアルっぽい。以前見ていたTVドラマ『NYPDブルー』でも警察署の更衣室が全く同じだった。米国ではあれが標準仕様なのか(@_@;)
善悪度:8点
金策度:9点
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