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2015年12月 6日 (日)

「あの日のように抱きしめて」:自分の顏、他人の愛

151206
監督:クリスティアン・ペッツォルト
出演:ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト
ドイツ2014年

『東ベルリンから来た女』と同じ監督、同じ女優男優による新作。今回は敗戦直後のベルリンが舞台である。

顔を負傷するも強制収容所を生き延びたユダヤ人女性歌手が、顔を整形してベルリンに戻り生き別れた夫(非ユダヤ)を探し回る。
キャバレーで働く夫を発見するが、向こうは彼女だと気付かない。

それどころか妻に似ている別人の女だと思い込んでいて、妻の身代わりになって遺産をだまし取ろうと提案する。ヒロインの一族は資産家だったがみな殺されて、彼女はその財産を相続したのだ。
ひたすら夫の傍にいたい彼女は、他人のふりしてその申し出を受け入れるのであった(健気!)。

予告だとなんだか犯罪の絡んだサスペンスもののようだったのだが、実際見てみると大戦を背景にした運命の変転と、その皮肉な決着を描くのが中心だった。
向こうが気付かないうちはこちらを見て欲しい。しかし、向こうが気付いた時にはもう見て欲しくなくなっている。
その皮肉を彩るは、名曲notes「夜も昼も」や「スピーク・ロウ」。後者はクルト・ワイルの曲だそうな。全く知らなかった(^^ゞ

「夫だけが妻だと気付かないのはおかしい」という意見が結構あったが、確かにそれは言える。
彼は妻を見捨てたという罪悪感を戦争中からずっと感じていて、その裏返しで死んだと思い込んだという説を取りたい。
そう考えると、妻が夫を必至に追い求めるのは失われた戦前の平穏な生活(の象徴)を取り戻したいからだろうか。
さらに謎なのは、ヒロインの友人である。彼女はずっとヒロインをイスラエルに行こうと誘っていたのだが……その心境は作中では明確に語られない。

空襲であちこち崩れた市街が続く。友人たちと昔に撮った写真には何人かにバツ印がついていて、それで彼らがナチだったと知る。
戦争後のドイツを襲った変転の激しさを物語っている。(まあ、日本も同様だったと思うが)

唯一の難点は、離婚届の場面を早々に出してしまったことである。「決定的証拠」なんだから、もっと終盤まで取っておけばよかったのに(^^?) そうすれば夫の真意が観客にも謎だったのにねえ。

主役のニーナ・ホスはやはりうまい。自転車に乗って目的地へ行く前と行った後はまるで別人である。夫を演じたロナルト・ツェアフェルトは、善人とも悪人とも言い切れないビミョーな立場を巧みに表現していた。


サスペンス点:6点
音楽音響点:8点


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