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2016年1月 6日 (水)

アートのドキュメンタリー映画二題

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★「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」

監督:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル
米国2013年

『シュガーマン 奇跡に愛された男』系というか、忘れ去られていたアーティスト発掘dangerという系列のドキュメンタリーである。

シカゴに住む青年がオークションで大量のネガフィルムを買った。中身を見ると、街の日常を映した白黒写真であった。出来が優れているのに驚いた青年がネットにアップすると大反響を巻き起こしたのである。
ただ、美術館などからははかばかしい反応は得られてないらしい。

で、その撮影者の無名の女性の正体を探るというドキュメンタリーだ。
彼女は泊まり込みの乳母(といっても小学生ぐらいまでの子どもも対象)として転々とし、それと同時にいつもカメラを手にしてストリート写真を撮り続けていたのだ。例えば、子どもを散歩に連れて行ったり、買い物のついでに--といった感じだ。

実際に世話をされた(元)子どもたちや家族に話を聞いて回るが、奇人変人偏屈人であったことは間違いない。自分の生い立ちを偽って語り、子どもには虐待めいた扱いをし、天涯孤独だった。
また保存魔で、泊まり込んでる家の自室だけでなく通路などにも新聞などをため込んだという。
そして、彼女の故郷やその最期の地まで追っていく。映画の作り手の側も執念である。

彼女はなぜ作品を公に発表しなかったのか?
最後になぜ全て手放してしまったのか?

恐らく彼女は新聞やら何やらをため込んだ(貸倉庫いっぱいfull)ように、恐らく人生の瞬間瞬間をため込んでいたのかもしれない。だから、保存しておけば他人の目にさらしたり自分で見返したりする必要はなかったのだろう。

その作品は、インタビューで語られているように同時代のストリート・フォトグラファー(ロバート・フランクなど)と印象が似ている。ただ、個人的にはどうも被写体との距離がなにか隔たりを感じるような所があって、あまり引き付けられない。
M・モンローのポスターと自分の写真を重ねたようなのは面白いけれど……。

彼女の使用していたカメラは上から覗き込む方式のヤツで、昔、私の父親が使っていたのでその点は懐かしかった。


芸術度:6点
変人度:8点

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★「美術館を手玉にとった男」

監督:サム・カルマン、ジェニファー・グラウスマン
米国2014年

米国では結構話題になった事件らしい。
30年もの間、とある男が地方の美術館に有名絵画を「寄贈」と称して、実は自分が描いた贋作を各地で渡していたということが発覚したのだった。2011年というから、まだ新しい話だ。
それが、極めて精巧なので各美術館では疑いもせずに展示していたのだという。中には威信をかけて、受け取ったことを否定する所も……。

贋作を渡したといっても、それで代償を得ているわけではないから犯罪には当たらないらしい。
その守備範囲のジャンルは古めかしい宗教画からピカソ、そして某有名キャラクターまで(著作権には引っかからないの?)なんでもオッケーなのだ。

その男の半生を辿り、もちろん本人にも密着取材する。それと同時に彼を追跡し執着し過ぎで遂にはクビになってしまった元・学芸員にも取材している。

こう書くと謎解きサスペンスっぽいようだが、そういう作り方はしていない。彼の生い立ちを辿る前半はちょっと退屈で眠気虫に取っつかれそうになってしまった。
若い頃に統合失調症と診断され、診療所でボーッとした表情を見せてる男が、いざ贋作を作る段になると天才的な腕前を見せる--その落差、あるいは矛盾が見どころだろう。

遂には、美術館で彼の贋作展まで開かれてしまうのだ(!o!)
その時、多くの人がこれだけの技術を持っているのだから「自分の作品を描いたら」と勧めるが、彼にはその気はないようだ。

多分、他者と関わりを持つ機会がほとんどなかった彼にとっては、自分の絵を描くことよりも「寄贈する」という行為自体を望んでいるのだろう。
インタビューで少しそんなことを漏らしていたと思う。「寄贈している時はまともな人間として扱われる」というような意味のことを。「寄贈」こそが彼の唯一の表現行為なのだ。

それで、今日も彼は牧師の扮装をして「寄贈」に出かけるのである。


ところで、この映画の前に「通学シリーズ」とかいうケータイ小説(?)の映画化作品の予告をやっていた。高校生のカップルがイチャイチャする内容らしい。
この時館内を見回すと、客でこれを見そうな人間は(私を含めて)誰一人いそうになかった。予告はもう少し対象を考えてやって欲しいぞっと。


芸術度:7点
変人度:8点

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